JR東海は、プレスリリースにて東京オリンピック開催直前の2019年度にN700系の投入を完了し全ての東海道新幹線を走行する列車をN700系(及び2020年度より投入されるN700S)に統一すると公表した( http://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000028233.pdf )。今回はこれについて見ていく。
1. 東海道新幹線は昼間もスピードアップ
現在、東海道新幹線ではN700系と700系の2車種が運行されている。
700系は東海道新幹線では起動加速度2.0km/h/sの最高速度270km/hであるものの、N700系は起動加速度2.6km/hの最高速度285km/hであることから、1停車につき短距離の東京〜品川間や熱海〜三島間を除いて1分程度短縮されるものと見込まれる。この駅間所要時間の短縮により東京〜新大阪間の「こだま」は理論上14分の短縮が見込まれ、「こだま」が速達化することにより待避に関係する「のぞみ」「ひかり」もスピードアップできる。とはいえ、東海道新幹線の「のぞみ」は現在最速2時間22分。平均的な昼間の「のぞみ」は東京〜新大阪間で2時間33分であることから、そこから14分短縮することは不可能である。
となれば昼間も2時間22分での運行をするのだろうか。そうとも言い難いので、N700系が現在の性能で運行をし続けるという前提で以下に根拠をまとめる。
1.1. 東京・新大阪発着時刻「0・3・6(7)」の法則
JR東海では2003年10月1日の300系以降の系列に統一された「のぞみ大増発」を行った際、東京駅および新大阪駅の発着時刻を上り・下りともに分の下1桁を早朝・深夜を除き「0・3・6(7)」に統一した。また定期・多頻度「のぞみ」は2008年3月15日のダイヤ改正より原則東京発が分の下1桁が0、東京着は3に統一されている。このことから白紙改正が行われない限りはこれが踏襲され続けるものだと考えられる。
現在、昼間の「のぞみ」は毎時10本(定期・多頻度・臨時の合計)中毎時8本が2時間33分~2時間34分で運行されている。また毎時1本はN700系専用ダイヤ化しており2時間30分で運行されているが、この時刻もA化改造前は2時間33分で運行しており、スジとしては同一時間で運行可能になる。ただ1番最後に増発された東京毎時53分発・毎時50分着の僅少「のぞみ」のみ2時間37分運行と他の「のぞみ」と比べて4分程度長くなっている。このことから、「のぞみ」から「こだま」まですべての営業列車がN700系に統一された2020年3月のダイヤ改正では昼間の「のぞみ」の多くは2時間23分または2時間26分での運行になるものと思われる。
1.2. 名古屋・京都の1分停車は昼間では危険
現在最速運行となっている「のぞみ」は東京~新大阪間で2時間22分での運行となっている。しかしこの「のぞみ」は利用の少ない初電と終電が中心で、名古屋・京都の停車時間は1分しか設けられていない。これは東北新幹線「はやぶさ」にも類似点があり、最速達列車のみスピード勝負のため仙台駅での停車時間を通常の2分から1分に縮めている。このため、あくまで名古屋・京都での停車時間は昼間のパターンダイヤ時間帯は2分設ける必要があり、必然と2時間24分以上かかることとなる。そうなると2時間23分での運行は難しく、多くの「のぞみ」は2時間26分での運行になるのではないだろうか。
>1.3. 営業列車のN700化後も残る幸せな列車の存在
JR東海は2020年3月を以て全営業列車をN700系にするとしている。しかし、2020年以降もしばらくは幸せな列車は走るものと思われる。その幸せな列車は923形「ドクターイエロー」であり、700系新幹線をベースに製造されている。0系タイプの922形は約25年程度用いられていることから、2000年と2005年に導入された「ドクターイエロー」も2020年代までは使用できるものと考えられる。そのため「ドクターイエロー」ののぞみ検測を行えるスジを残しておく必要がある。「ドクターイエロー」は停車時間が名古屋・京都などでは必要ないとはいえ、700系が最速2時間30分であったことを考えると、他列車に影響を与えやすい時間帯にこれ以上速い運転はリスクが高い。そのため昼間でも2時間30分で運行する臨時「のぞみ」の設定が必要となってしまう。
そのため、2時間30分で運行するスジを作るためには、先述の東京毎時53分発・毎時50分着の僅少「のぞみ」を使用するほかない。この「のぞみ」は待避の関係上他の「のぞみ」より3~4分長く設定する必要がある「のぞみ」のためこれをうまく利用し、他の「のぞみ」臨時含め毎時9本を2時間26分で運行させるのがもっとも効率的になるのではなかろうか。
ちなみに山陽新幹線では主要駅の岡山・広島での停車時間が1分になっている。これは航空機対策による供給過多になっているものだと思われ、1列車・1ドア当たりの乗降人数が東海道新幹線や東北新幹線より少なくなり、分散されやすくなるためだと思われる。
1.4. N700Sの性能向上を昼間に謳うには
JR東海では2019年度にN700系の投入を完了し、東海道新幹線を運行する全ての列車をN700系に統一するとしている。
だがJR東海の東海道新幹線への挑戦はこれでは終わらない。JR東海では早速新型車両N700Sの設計に着手し、2018年度に試作車が、2020年度には量産車の製造が決定している。そのためN700系も2020年から少なからず淘汰が始まってしまうのである。この新型車両N700Sの性能はいまだ不明な点が多いが、ブレーキの改良によりもし東海道新幹線でも300km/h運行ができる列車になるとすればさらなる時間短縮が可能となる。とはいえ、N700A化した際には最高速度が15km/h引き上げられ、車体傾斜区間を増やしてやっと3分短縮できた。単純計算では時間は速度と反比例するからさらに15km/h上げても3分も短縮できるか微妙である。車体傾斜角度を増やせない以上カーブ区間ではこれ以上のスピードアップは難しく、さらに壁となる。そのため、東海道新幹線内で300km/h運転を行っても2時間20分運転が限界ではなかろうか。
そうなると待避列車が多い昼間での同時間での運行は難しく、先述の名古屋・京都の停車時間問題も踏まえると2時間23分での運行が理想となりそうだ。もしN700系に統一された瞬間昼間も2時間23分運行となろうものならN700Sを投入するメリットが激減してしまう。またJR東海は新型車両投入の翌年には翌年に毎時1本の東京~博多間の「のぞみ」を運行できるほど新型車両を投入するのが恒例となっており(大概東京毎時10分発・毎時33分着)、そのためのスジ作りも欠かせない。また所要時分を切り詰めすぎると遅延が増大し、高速鉄道なのに平均遅延が1分程度の東海道新幹線のイメージを壊しかねない。そのため余裕をもって2020年には昼間の「のぞみ」は2時間26分運転となるのではないだろうか。
2. 東京発19時台からは定期「のぞみ」が交換?
2020年のダイヤ改正では前述のとおり東海道新幹線の昼間の「のぞみ」が少なくとも7分短縮されるのは間違いなさそうだ。そこで次に問題になってくるのは初電・終電問題である。東海道新幹線では2012年3月12日のダイヤ改正で定期・臨時・多頻度「のぞみ」を毎時9本中3本3分短縮させたついでに航空機対策も兼ねて朝の知王経9時03分から11時03分着の「のぞみ」について、原則パターンダイヤと定期と多頻度列車を入れ替え、山陽新幹線直通可能列車も10分ずらし入れ替えている。この時間帯は山陽新幹線の始発駅6時台発なので臨時の山陽新幹線からの臨時「のぞみ」設定はないが、これにより岡山からの東京着時刻を10分繰り上げることに成功した。
2020年3月のダイヤ改正でも同様のことが見込まれる。初電については博多発東京行き「のぞみ2号」が博多発時刻を少し繰り上げ(3分程度繰り上げて6時05分発と想定)、東京着時刻を11時13分から11時03分着に10分繰り上げられるものと思われる。終電についてはさらに大規模に繰り下げることができ、山陽新幹線直通列車を10分ずらすことにより博多行き、広島行き、岡山行き、姫路行き「のぞみ」の東京発最終を10分繰り下げ、それぞれ19時ちょうど、20時ちょうど、20時40分発、21時ちょうど発にすることができ、非常にわかりやすい時間となる(終着駅で2~3分程度繰り下げ含む)。これによりかつての東京21時ちょうど発「シンデレラエクスプレス」は新大阪行きの終電であったが、2020年から当分の間は姫路行き終電となりそうである。
3. 結び
2020年のダイヤ改正では700系の営業列車からの引退によって、大幅に昼間の所要時分が短縮されることが見込まれており、第2次A化改造によるブレーキ力強化によりN700系自体の東海道新幹線内最高速度引き上げも見込めるのかもしれない。また新型車両のN700Sについてもさらなる機能改善とJR東海史上初の短編成化できる車両として導入され、将来的なリニアリレー列車としての機能も想定しているのであろう。今後の東海道新幹線のダイヤにも期待したい。
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