南海電鉄は5月23日、なんば筋線を大阪府や大阪市、JR西日本、阪急電鉄とともに整備する方針であるとすると公表した( http://www.nankai.co.jp/library/company/news/pdf/170523_1.pdf )。今回はこれについて、ルートの選定や南海なにわ筋線および周辺路線のダイヤ改正予測について見ていく。
なにわ筋線開業に伴うJR西日本のダイヤ改正予測についてはこちら!
1. 路線配置は経営不振路線の救済か
今回大筋でルートが決まったなにわ筋線のルートについて、公表されているものから見ていく。
そもそもなにわ筋線は、関西空港や阪南方面から梅田を直接目指すために建設が計画されている路線で、JR大和路線のJRなんばから梅田を目指して作られる計画で、それに沿って私鉄の南海も梅田を目指す計画としていた。計画当初は南海については汐見橋線の汐見橋からまっすぐ北上する計画であったが、今回変更になることが明らかになった。具体的には、JR大和路線JRなんば駅と南海本線新なんば駅の両駅(地下に設置)からなにわ筋へ向けて北西方向に向け伸びることとなった。JRなんば駅は既存のJR大和路線の駅であるが、南海新なんば駅は地下鉄四つ橋線なんば駅付近に設置される模様で、近鉄大阪難波駅からのアクセスが向上される。その後、長堀鶴見緑地線の西大橋には駅を設けず、地下鉄中央線との交点付近に西本町駅を設置する。その後さらに北上し京阪の乗り入れる中之島駅を通り、JR西日本がおおさか東線の終点として設置予定の北梅田駅に乗り入れ、新大阪・京都方面への乗り入れ運転を行えるようにするとしている。
今回のなにわ筋線計画の路線環境から考察していくと、南海新なんば駅は地下設置でかつ新今宮から徐々に地下に潜っていく構造であるとすれば、東側配置の南海高野線の地下化ではなく西側配置の南海本線が2線ともそのまま地下に潜らせた方が賢明で、もし万が一南海高野線を地下化するとすれば今宮戎駅をどうするかという問題が生じるが、南海本線の地下化であればその心配は不要である。また本線は地下・高野線は地上と分離することにより、ダイヤ設定の制約がほとんど課されなくて済む。まるで大阪上本町駅における近鉄大阪線(地上)と近鉄奈良線(地下)のような棲み分けになるのであろう。南海本線普通列車も南海新なんば駅を2面3線ないし2面4線にすれば従来通りなんばで折り返せるものになると思われる。
南海新なんば駅については先述の通り、地下鉄四つ橋線なんば駅付近に建設される見込みで、近鉄大阪難波駅までの道のりがこれまでより400メートルほど短縮される見込みで、近鉄奈良線布施・近鉄奈良方面だけでなく、阪神なんば線尼崎・三宮方面への利便性を向上させるのであろう。この南海本線なんば駅の実質移転により、地下鉄千日前線への乗り換え距離も短縮される見込みであるが、大阪市中心部を走る地下鉄御堂筋線への乗り換え利便性は低下する見込みだ。沿線の比較的近いところを通ることと御堂筋線への乗り換え防止による旅客獲得および混雑が慢性化している御堂筋線自体の混雑率低下を目論んでいるものと思われ、民営化後の大阪市高速電気軌道にとっても必ずしもマイナスではないのであろう。
次の西本町駅は地下鉄中央線の本町駅と阿波座駅のほぼ中間地点。プレスによれば地下鉄中央線と乗り換えられるようだが、乗り換え距離は400mを超える勢いだ。もし西本町駅をもう少し南寄りに設置すれば長堀鶴見緑地線とも乗り換えられるのであるが…
さらに北に進むと中之島駅を設置するという。中之島駅にはすでに京阪中之島線が乗り入れており、普通列車を中心に運行されている。開業当初は京阪の梅田地区の玄関口乗り入れ(大江橋駅・渡辺橋駅)ともあって快速急行が毎時2本設定されていたのだが、見事に滑り負の遺産化している。特に天満橋~大江橋間は京阪本線の天満橋~淀屋橋間と同一駅扱いのため高額な建設費を回収するための加算運賃がとれず、苦境に苦しんでいた。そんな中終点の中之島駅からJR・南海に乗り換えられるようになれば加算運賃の回収が飛躍的に進むであろう。
そしてなにわ筋線の終点、北梅田駅。かつてのJR貨物梅田駅跡地に設置される駅であるが、改修しておおさか東線の列車を乗り入れさせるという。そしてその北梅田駅には阪急十三連絡線を開業させようという計画も立っているが、現状から察するに阪急が計画に口をはさんで優位に進めるための口実にしかすぎず、京都方面は京阪中之島線、神戸方面は阪神なんば筋線への乗り換えで事が済んでしまう。連絡線を建設する程であれば、中津駅から動く歩道を設置して中津駅は特急まで停車などの配慮をすればいいのではないだろうか。
このようになにわ筋線と乗り換え路線を見ていくと、共通項がみえる。それは、どの駅にも採算の良くない路線かつ遠距離まで運行する路線があるということだ。なんばの場合近鉄奈良線は賑わっているが阪神なんば線はスッカラカンの空気輸送、でも三宮まで乗り入れられる。地下鉄中央線は2025年大阪万博が行われる場合、施設として使われていた夢洲会場跡地に建てられる新しいパビリオンへのアクセス便利であるし、近鉄けいはんな線との直通でリニア中央新幹線の奈良県駅の候補地の1つである奈良学研都市にも向かうことができる。京阪中之島線もスッカラカンの空気輸送であるが直通列車を設定すれば京都方面まで直通かつ速達で行ける。このように、なにわ筋線は大阪を走る採算の取れない長距離路線を見事に結んでいるのである。計画当初は国鉄阪和線の大阪乗り入れ化、その後は単線かつ踏切のある東海道貨物線の線路容量緩和がメインのはずだったのに、いつの間にか数多の私鉄にカモにされてしまっているように見える。そして新快速の牙城である神戸・京都方面のアクセスを簡便にすることにより、JRから大阪ミナミ向け需要を奪う作戦に出ているのではないだろうか。
2. 南海本線は特急と空港急行の乗り入れが主体か
ここまでの情報を基に、南海列車のなにわ筋線乗り入れを予測していく。南海高野線列車の多くは原則既存の地上なんば駅乗り入れになるものと思われるため、なにわ筋線への乗り入れは南海本線が基本になるのであろう。
現状、南海本線の昼間及び平日夕ラッシュ時を走る列車は以下の通り(特記無ければ双方共通)。
- 特急「ラピート」毎時2本
- 特急「サザン」毎時2本
- 空港急行毎時4本(ただし平日夕ラッシュ時は2時間に1本程度区間急行に置き換え)
- 急行毎時2本(平日夕ラッシュ時のみ)
- 普通毎時4本(平日夕ラッシュ時は毎時6本)
以上となっており、昼間は合計毎時12本、平日夕ラッシュ時は毎時14本の列車が運行している。とはいえなにわ筋線は南海空港線同様JR西日本と設備を共有して運行するため、線路容量が限られる。そのため短距離の普通列車は南海新なんば折返しが濃厚で、平日夕ラッシュ時に運転される和歌山市方面急行も南海新なんば始発となるのであろう。残るは「ラピート」「サザン」空港急行の3つであるが、この3つはどれも捨てがたい。空港急行は実質南海本線の中距離輸送のほぼすべてを担っており、JR北海道の快速「エアポート」のように関西空港アクセスだけではなく南海本線沿線の人々を乗せている。特急「ラピート」も関西空港アクセスという点では重要な列車だ。残る特急「サザン」は、1999年5月のJR阪和線の紀州路快速による大阪乗り入れによる直通アクセス向上で大きく輸送人員を落としている。その落ち込んだ需要を奪い返すためには南海「サザン」が梅田へ乗り入れることが必要であろう。以上を踏まえると、南海なにわ筋線に乗り入れる列車は、昼間から平日夕ラッシュ時まで共通で
- 特急「ラピート」毎時2本
- 特急「サザン」毎時2本
- 空港急行毎時4本(ただし平日夕ラッシュ時は2時間に1本程度区間急行に置き換え)
の合計毎時8本となるのではないだろうか。
2.1. 停車駅はどうなる
毎時8本運行されるとしても、それらの停車駅はどうなるのであろうか。各駅に停まる種別は必要だから、南海空港急行に担ってもらう他なかろう。特急については「ラピート」「サザン」ともに座席指定車があり、それなりの発券設備が必要となる。西本町は通過であろうが、京都方面にも行ける中之島も通過にするのだろうか。神戸方面に乗り継げるなんばはなんば自体が繁華街であるが、中之島は梅田のはずれであり、中之島だけで需要をとるのは難しい。となると特急「ラピート」「サザン」は北梅田から南海新なんばまでノンストップになるのであろう。
2.2. 南海高野線の直通はごく一部か
では南海高野線は全く直通しないのであろうか?急行や区間急行、準急行は絶望的であるが、特急ならどうだろう。高野山へのアクセスに用いられる特急「こうや」であれば、近鉄名阪特急が大阪難波乗り入れするのと同様梅田乗り入れをして需要喚起を図るのには効果的に行える。特急「こうや」は大運転を行う必要があるため1両17m級車両であるりドア位置が合わないが、なにわ筋線はJR車両が20m級、南海車両が21m級でありすでにドア位置が一致しておらず、いわゆる一般的なホームドアの設置は難しい。そのため、ドア位置に関係なく直通できる、また運行本数平日4往復および土休日7往復と少ない特急「こうや」は梅田まで乗り入れが可能になるのではないだろうか。そのほかの特急「りんかん」「泉北ライナー」は通勤ライナー要素が強いのでなんば発着のまま維持であろう。
3. 南海の新大阪乗り入れはあり得るのか
また一部報道によれば、南海線列車を新大阪まで乗り入れさせてほしいという要望が出ている。新大阪は東海道・山陽新幹線に乗り継ぐことのでき、将来的にはリニア中央新幹線や北陸新幹線の乗り入れも想定され、まさに大阪の玄関口という様相をしている。なんば~北梅田間はJR西日本・南海ともに第二種鉄道事業者として運営するが、北梅田~新大阪間はすでに東海道貨物線としてJR西日本が第一種鉄道事業者として運行しているし、新大阪にはすでにJR特急「くろしお」「はるか」が運行されている。そこにもろ敵対する南海特急「ラピート」「サザン」を乗り入れさせるであろうか?今回の南海の要望は、宣言しておけば後々有利なカードとして使える可能性を残すためのものではなかろうか。
4. なにわ筋線開業による他私鉄・地下鉄路線への影響は
今回のなんば筋線の開業により他の私鉄・地下鉄路線とも結ばれることから、その他の路線についても考察していく。
4.1. 近鉄奈良線・阪神なんば線
なんばで接続する近鉄奈良線・阪神なんば線であるが、近鉄奈良線についてはすでにJRよりも優位であり奪う需要が少ないこと、阪神なんば線については普通車でガラガラなのは阪神電車全線でもちろんのこと、快速急行についても空席があり、昼夕輸送力比も100%であり空気輸送のため増発はほとんど行われないものと思われる。せいぜい近鉄奈良~阪神尼崎間での快速急行の増結程度であろう。
4.2. 地下鉄中央線
西本町で接続する予定の地下鉄中央線であるが、乗り換え距離が遠いこと、奪う需要がないことからこちらも増発の見通しは低いものと思われる。
4.3. 京阪中之島線
京阪については2008年の開業時中之島発着の快速急行を昼間は毎時2本、平日夕ラッシュ時は最大毎時5本(うち出町柳行き毎時3本)運行していたことから、中之島~出町柳間の優等列車が昼間は毎時2本、平日夕ラッシュ時は毎時3本程度設定される可能性がある。今の中之島線が空気輸送にも程があるレベルなのでその分普通列車を淀屋橋に乗り入れに振り替えて中之島線内は削減する可能性は大いにあるものと思われる。
4.4. 地下鉄御堂筋線
最後に南海線から梅田へ向かう際に用いられる御堂筋線である。路線が並行しているため御堂筋線の利用者数が減ることは間違いないのだが、現状でも昼間含め混雑が慢性化しており、本数維持のまま混雑緩和を目指すのが先決であろう。また2015年3月1日のホームドア設置による停車時間増加による平日朝ラッシュ時の減便で混雑率を10%増やし、大阪では異例の150%超えをしている。ここはなにわ筋線開業後でも本数を据え置くのではないだろうか。
5. 結び
2031年に予定されている南海なにわ筋線の開業では、大阪周辺の鉄道各線の勢力図にいたるところで変化が起きそうだ。今後どのようなダイヤが作られてゆくのか楽しみにしたい。
コメント
この件ですがITMediaではラピートとはるかとの統合も有り得るだろうと報道されております。
ただこの案で行くと天王寺を無視する事になりますが新今宮に代替として停車すれば解決するでしょう。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1611/11/news019.html