JR北海道は2024年4月1日、プレスリリースにて2026年までの中期経営計画を公表した。今回はこれについて見ていく。
新千歳空港~旭川間直通特急列車運転再開か!2025年3月JR北海道ダイヤ改正予測はこちら!
1. 特急「カムイ」と「エアポート」速達化へ!
今回のJR北海道中期経営計画2026では北海道新幹線の札幌延伸と同時または以後に各種列車の速達化を図り、札幌~旭川間の特急「カムイ」「ライラック」が85分かかるところを60分に、札幌~新千歳空港間を最速33分から25分にそれぞれ短縮するとしている。
またこれらの所要時間短縮には最高速度引き上げが欠かせないが、それより前に特急列車の停車駅削減も図るとしているから最高速度引き上げ時にさらなる所要時間短縮が見込める。
ではどれくらいの速度が必要なのか計算してみよう。
2. どれくらいの速度が必要なのか
では今回の札幌~旭川・新千歳空港間に必要な最高速度はどれくらいなのか、ざっくり計算しよう。
まずは札幌~新千歳空港間。特別快速「エアポート」の最速33分から25分に短縮するとしているが、途中停車駅はすでに新札幌と南千歳のみとかなり絞っている。このためこれ以上の停車駅削減は不可能で、あとは起動加速度および最高速度引き上げに頼るしかない。
しかも千歳線のうち南千歳~新千歳空港間は単線で地下線のためこれ以上の最高速度引き上げが難しい。このため最高速度引き上げ区間は札幌~南千歳間に限られ、この区間を最速21分で運転する必要が生じる。
しかも120km/hから停止するまでの1分と停止から120km/hに達する1分は最高速度を引き上げても速度が変わらない。つまり1停車につき2分は速度向上除外区間となる。
これをもとにざっくり計算すると、現行120km/h運転における札幌~南千歳間最速29分では新札幌停車のため所要時間が短縮可能なのは時間は27分、これを21分から1停車2分を引いた19分に短縮すべく必要な速度は、120×27/21=170.52と出る。もっともざっくり計算しているので誤差は多少出るが、160km/h運転では足りず最低でも170km/hが必要ということになる。
次に札幌~旭川間。現行の特急「カムイ」「ライラック」は120km/h運転で85分で結んでいる。途中停車駅は岩見沢、美唄、砂川、滝川、深川の5駅で、所要時間短縮が可能な時間は10分を引いた75分である。
この75分を50分に短縮すればよいのでざっくり計算すると120×75/50=180となり、180km/hでの運転が必要となる。
ただ、JR北海道では特急停車駅の削減も行うとしている。札幌~旭川間の特急は毎時1本~2本であるが、1988年時点では毎時1本は現行と同じ途中5駅停車だったものの毎時2本目は岩見沢と滝川の途中2駅停車だった。もし停車駅を現在より3つ減らして岩見沢・滝川のみとした場合どうなるのだろうか。
まず、現行の120km/h運転の場合85分から81分に短縮可能となる。このうち2駅停車のため4分は短縮できず、77分を56分に短縮すればよいことになる。そうなると120×77/56=165となり、165km/h運転が必要となる。やはりこちらも160km/hでは足りないのだ!
しかもこれらのあっくり計算はカーブが一切なく120km/h運転を行える区間すべてでどれくらいの速度が必要かを計算したもので、北海道の鉄道は直線が多いとはいえカーブでは減速が必要となる。もっとも線形改良も行うとしているが最高速度で運転で来るわけではない。
そう考えると今回の札幌~旭川・新千歳空港間では最高速度160km/hよりさらに高速な170km/h以上の運転を目指していると言わざるを得ない。
3. 国内最高速度170km/hでの運転は可能なのか
では今回のざっくり計算から導き出した170km/hでの運転だが、在来線で行うのは実際に可能だろうか。
日本国内の在来線では最高160km/hでの運転となっていることから、170km/h以上の運転を行うと国内最高速度での在来線列車運転となる。
ではなぜ日本では在来線列車は160km/hまでしか出していないのか。
日本の在来線は踏切が多いため、事故を最小限にするために600m以内に停止できる速度での運転しか認めていない。また標準的なブレーキの場合、130km/hまででないと600m以内に停止できない。このため幹線特急列車であってもそのほとんどが130km/hまでしか出さない。
在来線で160km/h運転を行っている線区は北越急行ほくほく線や京成成田空港線などがあるが、いずれも新設軌道で踏切がないため特例として600m以内に停車できない速度でも運転させてもよいとしているし、踏切の少ない韓国では900mまでに停止できればいいので150km/h運転をザラに行っている。ただ千歳線や函館本線には踏切があるため600mで停車できないなんてことは日本ではあってはならない。
一方、踏切の一切ない新幹線では4000mまでに停止すればよいので(東海道新幹線のみ最短3分間隔運転を行うため3000m以内に停止するような速度にしている)、通常のブレーキでも275km/h運転ができるしブレーキ性能をさらに上げたE5系「はやぶさ」は320km/h運転にも対応している。現在JR東日本ではさらにブレーキ力を向上した試験車両ALFA-Xを用いて、360km/hでの営業運転を行う予定だ。
ただこのALFA-Xは停止するまでの制動距離を変えることなくブレーキ力の向上で最高速度を引き上げている。
このALFA-Xのブレーキ技術があれば170km/h運転でも600m以内に停車できるようになる。JR東日本の車両技術ではあるが、JR北海道管内北海道新幹線まで乗り入れるしJR東日本の技術を共有して共通設計の気動車としてH100形を導入したことはあるから技術供与はできるはずだ。そうなれば今回のJR北海道各方面高速化に必要な170km/h運転を確保することができる。
つまり今回のJR北海道の中期経営計画における札幌~旭川間最速60分、札幌~新千歳空港間最速25分というのは、最新試験車両ALFA-Xのブレーキ技術を在来線に転用して170km/h運転を行った場合の理論上最速値を言っているのではないだろうか。
JR北海道は利用が少ないにもかかわらず積雪や野生動物が多いため維持費がかかりやすく経営難が続いており北海道や日本国から資金提供を受けるほどで、高速車両キハ285系の開発を中止したほどである。そんな中でも実現可能な技術で速度向上を図るJR北海道には感服するばかりである。
4. 特急の高速化に必要なそのほかの設備投資はいかに?
ここまで今回の高速化には少なくとも170km/h運転が必要なことは分かったが、そのほかに必要なことはあるだろうか。
まず、この170km/h運転を行う区間を最大限増やすためJR北海道では線形改良を行うとしているが、全区間で行えるわけではない。そのためカーブでも本則+20km/h以上で走行できるよう車体傾斜装置は必須と言えよう。おそらく空気ばね式車体傾斜装置にはなるだろうが、ブレーキ構造の変更と車体傾斜装置の導入を考えれば新型車両の投入は必須と言えよう。このため札幌~旭川間の高速化がなされた暁には現在の789系は全廃車となるだろう。
さらに、あくまで踏切があるためALFA-Xnブレーキ力をもってしてでも170km/hまでしか運転できないわけであって、踏切のない区間では特例としてさらなる高速運転は可能だ。
千歳線で踏切がないのは平和~上野幌間(途中新札幌に停車)、千歳~南千歳間などに限られる。距離が短いため170km/hを超える運転をほとんど行えないだろう。
一方函館本線では平和駅横~高砂間は連続立体交差化事業が完了しており、約16kmにわたり踏切がない。しかも途中停車駅もないためこの区間で特例として170km/h超を超える運転を行う可能性はある。このため車両の設計最高速度は200km/h程度で製造してもおかしくはないだろう。
5. 列車運用と車両投入はいかに!
ではこの高速化を図った場合、列車のダイヤはどのようにするだろうか。
まず、大きな設備投資を行ったのに札幌~新千歳空港間を25分で結ぶ列車が料金の取れない快速や特別快速でいいわけがない。このため設備投資分を回収する目的で特急に格上げするだろう。
空港連絡列車に特急を設定することはよくある話だが、実際にJR北海道でも1988年3月13日一本列島ダイヤ改正で千歳空港(現南千歳)10時06分発特急「ホワイトアロー3号」札幌行きノンストップ列車の運行実績があるため問題はない。また2024年3月16日JR北海道ダイヤ改正で昼間に毎時1本特別快速エアポートを設定したのも将来的な特急格上げを見据えてもの問いも取れるd労。
一方札幌~旭川間では全列車を岩見沢・滝川のみ停車の停車駅を絞った列車にするわけにはいかない。このため1時間に1本は美唄・砂川・深川への停車列車を確保するとなると札幌~旭川間を最速の60分で運転する列車は24往復中4往復しか設定できない。4往復のために170km/h運転可能な車両を導入するのはコストパフォーマンスが悪いことから、おそらく4往復以外の一部列車でも170km/h運転を実施し札幌~旭川間を約65分で結ぶのだろう。
ただ、この両列車を直通する可能性もある。というのもJR北海道では2016年3月25日まで特急「カムイ」毎時1本を札幌~新千歳空港間快速エアポートとして運転し新千歳空港まで乗り入れていたためである。このため実は新千歳空港~旭川間最速90分というのも目指しているのかもしれない。
ただ直通化するということは毎時1本程度の設定が必要であって、最低でも4本、予備車を含めれば6本の車両投入が必要である。
またこの札幌~旭川・新千歳空港間の車両投入によってJR北海道の在来線電車特急列車はほぼこの運転系統に集約すること、789系をすべて引退して170km/h対応の新型車両とするのかもしれない。そうなると札幌~旭川間の特急電車全便の高速化が可能なことから、特急運用を1運用減らせそうだ。
ただこの整備費用の財源はどうするのだろうか。高速化による便益は道民が受けるので公示することが決まった際には当然北海道は出すだろうし、沖縄鉄軌道のように整備新幹線スキームで整備する可能性もあるだろう。
6. なぜJR北海道は今回の構想を公表したのか
ではなぜこの期に及んで今回の札幌~旭川・新千歳空港間の高速化を図る構想を公表したのか。
もっともこの構想自体を実際に実行したいというのもあるだろう。ただ、JR北海道は140km/h対応の強制振り子式車体傾斜装置搭載のキハ285系の開発を断念したことがありしかも全道の特急列車で130km/h運転を取りやめ120km/hでの運転に引き下げたことを考えると、在来線の高速化を図れる保証はない。
そう考えると、Bプランとして北海道新幹線の旭川・新千歳空港延伸を行ってほしいと考えており、その引き出しとして構想を出したのではないだろうか。
もし北海道新幹線が札幌から延伸した場合、延伸区間は最高速度260km/hでも札幌~新千歳空港間は約15分、札幌~旭川間は約45分で結ぶ見込みだ。しかも新幹線は雪に強いのでより雪による運転見合わせが少なくなる。そう考えると実は北海道新幹線の延伸を実現させる糸口として今回の札幌~旭川・新千歳空港間の高速化構想を公表したのではないだろうか。
もし北海道新幹線の旭川・新千歳空港延伸となれば函館本線岩見沢~旭川間は廃線、宗谷本線特急「宗谷」および石北本線特急「オホーツク」の札幌乗り入れも終了すすだろうが、2017年3月4日JR北海道ダイヤ改正より一部で札幌乗り入れを終了し旭川で乗り換えとなっていることから、所要時間短縮を考慮すれば利便性はそこまで落ちないだろう。
さらに石北本線貨物列車の分断もあり得るが、そもそも北海道新幹線札幌延伸で北海道と本州方面の貨物列車の存続をするのかからあやしくなってきているので、北海道新幹線旭川延伸以前のア札幌延伸での問題だろうし、これに関してはJR北海道も貨物新幹線を検討すると中期経営計画に盛り込んでいる。
もっとも整備費用の見積もりはまだ完了していないようだが、整備新幹線を建設する場合との比較は出てくるだろう。その際にどちらの案になるのか、それともいずれの案もやらないのか楽しみだ。
7. 結び
今回のJR北海道中期経営計画2026では、札幌~旭川・新千歳空港間の速達化を図る国内最高速の170km/h運転を構想するに至った。
北海道新幹線札幌延伸で特急列車網を再編する中、今後JR北海道でどのようなダイヤ改正を実施するのか、楽しみにしたい。
新千歳空港~旭川間直通特急列車運転再開か!2025年3月JR北海道ダイヤ改正予測はこちら!
関連情報:JR北海道グループ中期経営計画2026 – JR北海道
コメント