JR東日本は2020年10月6日、プレスリリースにて東北新幹線で最高速度の引き上げを行うと公表した( 新幹線の速度向上に向けた取り組みについて )。今回はこのうち盛岡~新青森間の最高速度引き上げついて見ていく。
1. 盛岡~新青森間で320km/h運転実施へ
今回の2028年3月実施予定の東北新幹線ダイヤ改正では、盛岡~新青森間で最高速度を260km/hから320km/hに引き上げる。
設計最高速度は1964年開業の東海道新幹線からすべての新幹線で260km/hとなっているが、整備新幹線では使用料支払いの関係でこれまで260km/hを超える速度で運転する路線はなかった。とはいえ架線は盛岡~八戸間で300km/h、八戸~新青森間で350km/h対応で整備されており、八戸~新青森間に限れば騒音対策のみで320km/h運転は可能だ。
ではなぜ2019年初めになって整備新幹線区間の最高速度引き上げの実施が決まったのか。国土交通省では整備新幹線の整備に伴う資金が不足するようになり、いかに資金を集めるかが課題となっていた。またJR東日本では北海道新幹線札幌延伸時に盛岡以北260km/hでは所要時間が短縮できず、5時間程度かかるとしており整備効果が薄いと難色を示していた。しかし盛岡~新青森間の最高速度を引き上げれば、その分想定利用者数が増えるはずなのでJR東日本から鉄道・運輸機構への支払額が増えるし、JR東日本としても最高速度引き上げにより所要時間を短縮できるメリットがある。このことから両者の利益が合致し、整備新幹線初の最高速度引き上げを実施する運びとなった。
2018年の時点では5年以内に目指すということから2023年~2024年に実施するはずであったが、結果的に工期に7年かかるとしており2027年内に工事が終わり供用するのは2028年になる見込みだ。
ただこの工事では当初の見込み通り7年もかかるわけがない。工期が伸びたのは安全及び資金確保の面もあるかもしれないが、それ以上に2027年まで盛岡~新青森間で320km/h運転をできる車両を投入しないということを意味しているのではないだろうか。
ALFA-Xの成果による新型車両EX系(仮称)は2025年には営業運転を開始できるはずではあるのだが、
札幌延伸時に輸送密度を考慮して運転本数を設定しようとすると、盛岡以北では東京~札幌間運転の定期列車を毎時1本、東京~新青森間の定期列車を毎時1本、多客期に臨時列車として東京~新青森間に毎時1本運転すれば運びきれる。
このうち東京~札幌間運転の最速達列車は盛岡~新青森間は途中八戸に停める列車はあるかもしれないがそれ以外の中間駅は全通過とするほか、極力最高に近い速度を出し所要時間を短くしたいから360km/h対応とも言われる新型車両EX系の専用運用となり得る。
しかし東京~新青森間運転の列車で(運用繰りの関係で早朝深夜にEX系を充当する可能性はあるが)昼間に360km/hを出す必要はなく、現状通り東京~新青森間をE5系で運転し盛岡~新青森間でこまめに停車し3時間20分程度で運転していればEX系運転の最速達列車と合わせれば十分航空機に勝てる。そう考えるとE5系は盛岡~新青森間で最高速度を引き上げる必要は薄いのだ。
つまり盛岡~新青森間ではEX系が320km/hを出せばいいのであって、盛岡~新青森間では停車駅の多い列車にしか運用されなくなるE5系は現状と同じ260km/hのままでも構わないのだ。
また最高速度360km/hを出す予定のALFA-Xの成果による新型車両EX系が盛岡以北で320km/hしか出さない可能性も十分にある。一部列車しか360km/h運転を行わないのに整備新幹線区間で最高速度引き上げを行ってしまうと、貸付料がより高額化するためであるものと思われる。しかも盛岡~新青森間で320km/hから360km/hに引き上げたところで2分しか所要時間が短縮できないことを考えると、費用対効果も薄い。そのため盛岡以北はEX系でも320km/hしか出さない可能性がある。
なお盛岡~新青森間でEX系で320km/h対応にした場合、空気抵抗を勘案するとE5系では260km/hから285km/hに最高速度を引き上げることができる。この285km/h運転は山陽新幹線「こだま」用700系8両編成や500系新幹線と同じ最高速度である。2031年は項八戸のみならず二戸やいわて沼宮内、七戸十和田への停車列車を中心に担当ようになるE5系にはそれで十分だろう。
また2011年のE5系運転開始当初は2016年までに東北新幹線のE2系を全てE5系で置き換えるとしていたが、2020年現在未だに13本のE2系が残っている。しかも2023年3月の上越新幹線最高速度引き上げに対応するため急ピッチでE7系を製造しているため、2023年までE5系が増備する可能性は極めて低い。
もはや最速で2023年から投入開始できそうなEX系で残りのE2系を置き換える可能性もあった中、2020年から急激な旅行利用の落ち込みにより新幹線利用が大幅に減少、一時は臨時列車の全便運休を行ったほか定期列車の減便すら行おうとしていた。またその後も前年比の半分も利用が戻っていない。
そもそも定期列車は車両の7割程度しか使用していない中、臨時列車運転用の車両を削減する可能性がある。
東京~盛岡間運転の臨時「やまびこ」毎時1本を削減すれば13本は何とか削減することができる。そう考えると、E2系を新型車両に置き換えるのではなく、車両の運用数を削減することでE2系を廃止に追いやる可能性が出てきた。
また北海道新幹線の札幌延伸は2031年3月予定であってどんなに早くても2030年より前になることはない。そう考えるとALFA-Xの成果による新型車両の投入が2028年からに遅くしても問題ないと判断したのだろう。
2. 最高速度引き上げに際し所要時間短縮はどうなる
では2028年3月ダイヤ改正で盛岡~新青森間で最高速度を320km/hに引き上げるが、所要時間はどの程度短縮されるのだろうか。
今回の盛岡~新青森間の最高速度を260km/hから320km/hに引き上げることにより所要時間を5分短縮するとしている。つまり盛岡~新青森間は最速47分から42分に短縮する見込みだ。
ただ5分の所要時間短縮で1運用減らせるかというと、おそらく無理だろう。
確かに最高速度引き上げに伴い所要時間短縮が図られるが、260km/hから320km/hに引き上げたにも関わらず所要時間効果が小さいような気もする。将来的にALFA-Xの成果により宇都宮~盛岡間で360km/h運転を実施することになった際に東京~新青森間で2時間30分台運転、2031年3月ダイヤ改正で北海道新幹線札幌延伸の際に東京~札幌間で4時間30分運転を行えるようにするためなのだろう。
東京~新青森間は2018年3月17日ダイヤ改正より1日18往復の定期「はやぶさ」が運転しているが、盛岡~新青森間ノンストップ列車は1日2往復しか運転されないほか、盛岡~新青森間で八戸のみに停車する定期「はやぶさ」も下り(新青森・新函館北斗方面)で5本、上り(盛岡・東京方面)で6本しかない。つまり残りの下り11本、上り10本は二戸や七戸十和田に停車するため、320km/h運転をほとんど行えないまま次駅停車に向けて減速してしまうのだ。これでは多くの列車で320km/h運転の恩恵を受けられないことになりそうだ。
3. 最高速度引き上げに伴い特急料金値上げへ
そして今回の2028年3月ダイヤ改正で最高速度が引き上げられれば、「はやぶさ」加算料金の対象区間となる300km/h以上で運転する区間が伸びることから特急料金の引き上げも実施される。
おそらく距離を勘案すると盛岡~八戸利用や八戸~新青森利用で100円加算、盛岡~新青森間利用で210円加算になるのではないだろうか。
もしE5系列車でも盛岡~新青森間で320km/h運転を行えば、は二戸、八戸、七戸十和田の3駅に停車しほとんど320km/h運転の効果が出ない列車であっても盛岡発着の仙台以北各駅に停車する「はやぶさ」のようにちゃっかり「はやぶさ」加算料金を徴収することになる。しかし盛岡~新青森間で新型車両EX系(仮称)は320km/h運転、既存のE5系は285km/h運転までしかしなければ、E5系運転列車については盛岡~新青森間での特急値上げを回避することができる。
ただ盛岡~新函館北斗間で運転されているE5系運転の定期「はやて」も、2031年3月の北海道新幹線札幌延伸時には札幌に乗り入れEX系運用になることから「はやぶさ」に格上げし特急料金の値上げを図るのだろう。
4. 結び
今回の2028年3月実施予定の東北新幹線ダイヤ改正では、盛岡~新青森間で最高速度の引き上げを行う。
しかし所要時間短縮の恩恵を受けるのはALFA-Xの成果による新型車両EX系(仮称)の毎時1本程度のみであり、2020年現在最速で運転しているE5系はほとんど変わらず運転するようだ。
今後東北新幹線でどのようなダイヤ改正を実施するのか、見守ってゆきたい。
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