JR東海は2016年3月26日にダイヤ改正を行う( http://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000028822.pdf )。今回はJR東海の大黒柱である東海道新幹線について見ていく。
1. 全てのN700系が最高時速285km対応へ
今回のダイヤ改正の目玉は、N700系の全てが改造を受け、最高時速285km対応となることである。
N700系は2007年から導入されている東海道新幹線の最新型車両で、2013年から改良型であるN700Aが運行を開始しており、既存のN700系もこれの一部を反映する改造を全編成に行っている。2016年からはさらに新たな改造を加えたさらに改良型が新製される予定であり、現在運用されている編成を含めてそれの一部を反映する改造を行う予定となっている。東海道新幹線の車両寿命は13年と言われているから、初期導入車も2020年までは使い続けるものと思われる。
東海道新幹線にはN700系固定運用が「のぞみ」で毎時4本、「ひかり」で毎時1本存在する。これらのうち「のぞみ」毎時1本については2015年3月12日のダイヤ改正で3分の時間短縮が図られたためすでに最高時速285kmでの運行になっているが、残る「のぞみ」毎時3本と「ひかり」毎時1本は今回時間短縮が図られてもおかしくないはずである。にも関わらず今回のダイヤ改正ではパターンダイヤ規格時間帯では臨時の5本を除いて時刻が変わらない。このことについて見ていく。
2. 東海道新幹線ではあと4年700系は走り続ける
先ほどN700系については述べたが、東海道新幹線にはもう1つ運行されている形式がある。それは1999年に登場した700系である。
700系新幹線はカモノハシのようなノーズで山陽新幹線では最高時速285kmを達成したが、東海道新幹線ではバラスト軌道で騒音が吸収されにくいことから最高時速270kmでの運行となった。だが700系も当時としては画期的な技術を搭載していた。それは、新幹線のくせに起動加速度が2.0km/h/sもあることである。この起動加速度は停止状態からどれだけの勢いで加速していくかを表しており、高ければ高いほど早く最高速度に到達し、所要時間の短縮につなげることができる。近年の普通の電車であるならば2.5km/h/sはほぼどの車両でもあるし、地下鉄なら3.3km/h/sあるのが普通である。しかし最高速度が高ければ高くなるほどギア比の関係で起動加速度が下がる傾向にあり、当時の新幹線は全て起動加速度が1.6km/h/s以下であったし、JR東日本管内を走る新幹線は今でも起動加速度は1.6km/h/sである。しかし東海道新幹線のような過密ダイヤを組まざるをえない路線では、起動加速度を上げることで遅延が減り、定時性を保つことができ、運転間隔を縮めることができる(実は2012年までこれが東海道新幹線であまり活用されていなかったことについては後述する)。こうして起動加速度が高い700系が導入され、今日でも走り続けている。
しかし技術は進歩するもので、先述の通り2007年からN700系が導入された。こちらは起動加速度が在来線並みの2.6km/h/sあり、時速270kmに達するまでの時間が285秒から180秒に短縮された。これと車体傾斜装置も活用してN700系ではさらなる時間短縮がされた。2012年に300系新幹線が引退すると車両寿命がきた車両から廃車するようになった。この廃車が完了するのは2019年度、つまり2020年3月実施予定の東海道新幹線ダイヤ改正でN700系への統一が図られ、パターンダイヤ規格時間帯にもスピードアップがなされるはずである。
3. ではなぜパターンダイヤ規格帯の短縮は難しいのか
東海道新幹線のパターンダイヤ規格帯は臨時列車もあらかじめ考慮されている。1時間あたり「のぞみ」10本、「ひかり」2本、「こだま」2本を裁かなくてはならない。もしすべての車両が性能が同じであるならダイヤを組むのに楽ではあるが、残念ながら700系とN700系では性能に大きな差がある。700系が300系より性能がいいことからその恩恵も一部は受けているが、700系が臨時「のぞみ」毎時5本と「ひかり」毎時1本、「こだま」毎時2本に入り得るダイヤを組んでいる間は、「のぞみ」も所要時間の制限を受けるし「こだま」も所要時間の短縮ができない。その中でN700系限定運用を設けても、前後に700系「のぞみ」がいたらのぞみ2本で一気に抜くことも考慮しなくてはならないから、難しくなってしまうのである。
一番わかりやすい例は2012年の300系引退時のダイヤ改正である。300系は晩年まで臨時「のぞみ」についており、この運用で昼間の2時間36分の壁を破れなかった。しかし300系が引退しダイヤの制約が減ったことで、臨時「のぞみ」のうち毎時4本が2時間33分での運行となった。逆に言えば、それまで300系自体もかなり運用に入っており、この時間短縮ができなかったのである。古い形式が全滅するといかにパターンダイヤに反映できるかがわかると思う。逆に言えば、古い形式が引退するまでパターンダイヤ規格時間帯の大幅な改正はないということになるかと思われる。
4. 定期列車で今回のダイヤ改正で時間短縮されるのは、パターンダイヤ以外の時間帯
今回のダイヤ改正内容について見てみる。
朝は東海道新幹線で完結する「のぞみ」が上下1本ずつ3分短縮される。また静岡発新大阪行き初電「こだま」の静岡発時間2分繰り下げ、浜松発東京行き初電「こだま」の浜松発時刻2分繰り下げ、あと静岡発東京行き「こだま」の1分短縮などが挙げられる。
晩は東海道新幹線内完結の下り「のぞみ」が1本3分短縮されるほか、上りも臨時列車が1本増発される。「こだま」については東京発浜松行き最終と静岡行き最終がそれぞれ時間短縮され、到着時刻で4分繰り上がる。この効果について見ていく。
今回の「こだま」時間短縮は5本中4本が初終電である。もちろんパターンダイヤ規格時間帯ではなかったからしやすかったのだと思われるが、その効果は列車だけにとどまらない。その駅の初電が繰り下がり、終電が繰り上がれば駅自体の営業時間を短くすることができる。この手法は2007年7月1日のN700系導入に伴うダイヤ改正で行われたもので、両方向とも最終の「のぞみ」を21時18分発23時48分着から21時20分発22時45分着にすることにより、東京と新大阪でそれぞれの行き先の終電を2分繰り下げ、東京、品川、新横浜、京都、新大阪の5駅で最終列車の到着時刻を3分繰り上げたのである。これにより駅の営業時間が短くなり、すべて規模の大きな駅であるからかなりの費用節減に今日でも働いている。今回の駅業務時間の短縮予測は、
新富士 終電2分繰り上げ
静岡 初電2分繰り下げ 終電3分繰り上げ(最終列車が下りから上りに変更)
掛川 初電1分繰り下げ 終電3分繰り上げ
浜松 初電2分繰り下げ 終電4分繰り上げ
となっており、最大で6分営業時間を短縮することが出来る。どの駅も「のぞみ」の停まるような大規模な駅ではないが、この分三島発静岡行き最終電車の2分繰り下げ、および沼津と富士でそれぞれ接続する最終の御殿場行きと西富士宮行きの繰り下げ分に使われているのだと思われる。
5. 今回パターンダイヤ規格時間帯で所要時間が短縮された臨時「のぞみ」
今回のダイヤ改正で1つ気になったのは、パターンダイヤ規格時間帯であっても臨時として「例外」を作り上げたことだ。最近東京毎時20分発の「のぞみ」にN700系が集まっているのは過去のダイヤ改正予測記事で触れた。この記事では東京毎時20分発の「のぞみ」がN700系限定運用にすることによって所要時間を短縮する可能性が他列車と比べて高いことを述べたが、今回その列車が新大阪の到着時刻ではなく東京の発車時刻をずらすことによって11時台~15時台の臨時列車のみ実現したと言える。この臨時「のぞみ」は年間600本程度運行される見込みであると記載されているが、逆手にとれば年間少なくとも120日は2014年3月から導入している「のぞみ10本ダイヤ」は必要ないことを述べている(さらに時間帯を限れば東京発11時台なんて「のぞみ」が8本で十分な日が年間300日を超えている)。今回は臨時に限っているが、定期便に関しても多少パターンをずらす形で時間短縮は出来ないものだろうかと思った。
6. 結び
今回の東海道新幹線のダイヤ改正は小規模で、山陽新幹線や九州新幹線にほとんど影響を与えていない。700系が残り続ける間はごく小規模なダイヤ改正にとどまると思われ、パターンダイヤ規格帯時間以外での小規模なものとなるものと思われる。2020年3月のN700系に統一されて格段にスピードアップしたダイヤの実現に向けて、より安全で快適な新幹線を目指してほしい。
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