JR東日本は2021年4月28日、2021年3月期の決算発表に伴い資料を公表した( 2021年3月期 決算説明会 )。今回はこれについて見ていく。
1. JR東日本管内で非電化化へ
今回の2021年3月期決算発表資料では、管内の一部非電化化と単線化の検討をし始めるとした。
これまでも単線区間で1面2線から1面1線に縮小し駅構内を単線化、信号設備を撤去して維持費削減をした事例はある(内房線那古船形、安房勝山など)。しかし徐々に経費節減をしてきた中このご時世で2020年から大幅に利用客数が減ったことから、さらなる経費節減を検討する必要が生じた。それが今回初めて挙がった非電化化と単線化である。このため実際に非電化化・単線化するのは少なくとも3年はかかるため、それを反映したダイヤ改正の実施も2025年以降になる見込みだ。
これまで電化路線の非電化化は名古屋鉄道の一部路線や栗原電鉄(のちのくりはら田園鉄道)で行われたことがあるが、ともに1両編成の気動車に置き換えている。今回のJR東日本が検討し始めた非電化化では蓄電池車(または現在開発中の燃料電池車)を走らせるとしているが、どのような路線が電化設備をはがしてまで非電化化するのだろうか。
まず普通電車が1日50往復以上、つまり昼間毎時2本を超える運転で電化していない路線はまずない(例外として関東鉄道常総線があるが、地磁気観測所の関係のため原則はあり得ない)。しかもわざわざ電化設備をはがしてまで非電化化するということは、まず普通電車が昼間でも毎時2本は設定のある路線はまず選ばれることはない。まあ昼間毎時1両で隣駅間輸送密度4,000人/日・往復運べるので、輸送密度8,000人/往復以上の区間は非電化化から外れるはずだ。
またJR貨物乗り入れ区間の非電化化はあり得ないほか、特急は原則電車しか持っていないJR東日本において特急運転区間(土休日のみ運転の内房線特急「新宿さざなみ」運転区間を含む)も非電化化することはまずありえない。
そう考えると非電化化できる路線はかなり限られてくるが、どのような路線が非電化化できるのか見ていこう。
1.1. 非電化化大本命は中央本線辰野支線か
まず非電化化で一番考えられるのは中央本線辰野~塩尻間だ。
中央本線は新宿〜松本を中心に走る特急「あずさ」があるが、岡谷〜塩尻間は国鉄末期に作られたみどり湖経由の新線を通っているため、旧線の辰野廻りは特急列車が通らなくなってしまった(余談だがみどり湖経由の新線ができる前まで辰野は特急停車駅だった)。
このため特急が走らなくなった岡谷~辰野~塩尻間のうち岡谷〜辰野間は事実上JR東海飯田線と運転系統が同一化してしまっているほか、残る辰野~塩尻間は1時間に1本程度折り返し電車がほぼ1運用で運転している。
また中央本線普通電車は最低3両以上の211系の運転が主流な中、中央本線辰野~塩尻間はほぼ終日折り返し運転でE127系2両編成が往復している。車両置き換え前は123系ミニエコー1両編成の運転だったため、空気輸送なのは明らかだ。
それもそのはず、中央本線辰野~塩尻間の2019年度の輸送密度は547人/日・往復しかいないのだ。この輸送密度はバスでも昼間は3時間に1本あれば十分運べるレベルで、距離が辰野~塩尻間で18.2kmしかないこと考えてももはや鉄道である必要がないレベルでしかない。
もっとも蓄電池車は最低2両編成からしか組めないので1両編成でも運転できる気動車化するのがいいのかもしれないが、気動車にすると電車運転免許とは別に気動車の運転免許を持つ人員を配置しなくてはならなくなる。そう考えると塩尻や辰野で充電し蓄電池車を走らせるのがベストではないだろうか(もっとも辰野~みどり湖~塩尻間にバスを走らせて鉄道を廃止にした方が手っ取り早いレベルではあるが)。
まあ中央本線辰野~塩尻間を非電化化するも廃止にするもE127系が余剰となる。余剰分は新潟に転属して115系を置き換えればムダなく使えるだろう。
1.2. 青梅線も一部非電化化で運賃値上げまで検討か
次に考えられるのは青梅線青梅~奥多摩間。この区間の輸送密度は2019年度は3,715人/日・往復であったが、直近5年間でも年によっては4,000人/日・往復を超えている年はいくつかあるので国鉄時代の特定地方交通線による廃止選定からは十分免れることができるレベルだ。
ただ廃止するほどではないとしても、赤字なのは間違いないし青梅~宮ノ平間は昼間は毎時2両あれば運ぶことができる。それも受けて2016年3月26日JR東日本八王子支社ダイヤ改正で青梅線青梅~奥多摩間の平日昼間の運転間隔が30分間隔から45分間隔に開いたのも利用が減っていることを受けているのだろう。
ただ現状青梅線青梅~奥多摩間は原則E233系4両編成で運転している。これは明らかに供給過剰なのだが、ほかに車両がないので致し方なく使っているのだろう。
ただ2021年現在青梅~御嶽間でも平日朝に毎時3本の運転があるが、6両や4両から2両に減車しても運びきれてしまうのだ。そうなれば電化設備を取っ払って専用の2両蓄電池車を投入した方が維持が安上がりになること、現在は4両ツーマン運転だが2両編成になればワンマン運転も実施できることから専用車両で青梅~奥多摩間を走りだすことも十分考えられる。
もっとも青梅~奥多摩間の電化設備を奥多摩駅構内及び御嶽駅構内を除き取っ払い蓄電池車のみの運転にしたらE233系の奥多摩乗り入れは不可能になり、奥多摩から立川や東京への乗り入れはほぼ不可能になる。ただJR東日本では2023年の中央線快速直通列車のグリーン車設置を計画しており青梅を1面2線から2面3線に拡充し立川方面と奥多摩方面を青梅で乗り換えさせる気満々であること、東京から奥多摩まで直通しているホリデー快速おくたまも12両での運転となり4両は拝島で増解結するが、8両編成では奥多摩のホーム長の関係から乗り入れられないため青梅行きに短縮せざるを得ないことから青梅~奥多摩間は電化設備を撤去しなくても東京への直通列車が設定できなくなってしまうのだ。
そうなれば中央線グリーン車導入開始の2023年までに青梅線青梅~奥多摩間は原則区間内往復列車のみの運転となり、東京方面の直通列車の設定ができなくなる。そうなれば電化設備を撤去して専用の蓄電池車を走らせたって非電化化による利便性低下はないので比較的すぐにできるだろう。いやむしろ架線がなくなって景観が良くなると言えば自然の豊かさを売りにしている沿線にはかえって好印象かもしれない。
しかも青梅線青梅~奥多摩間の電化設備を撤去してしまえば通勤電車が乗り入れられなくなることから電車特定区間から外せる可能性がある。そうなれば幹線のままだったとしても1kmあたり税抜15.3円から16.2円に値上げすることができ、5.9%の値上げが可能になる。しかも東京や新宿など電車特定区間内の駅へも全区間幹線運賃になるからさらなる増収が見込めるのだ。
1.3. 信越本線高崎~横川間で非電化化か
(2024.11.27 追記)また信越本線高崎~横川間で非電化化の可能性もある。
信越本線高崎~横川間はかつて特急「あさま」「白山」などが通っていたが1997年10月1日長野新幹線開業により横川~軽井沢間が廃止、群馬県内をただ折り返すだけの路線となった。
時折観光列車としてDL/ELぐんまを運行してきたが2024年11月24日の運行をもって廃止、碓氷峠鉄道文化むらの夜間開園に合わせた臨時特急「横川ナイトパーク」も2024年1月の運行をもって廃止している。
2024年12月時点でせいぜい電化設備が必要なのは1日1往復の安中貨物くらいしか残っていないが、安中~横川間の電化設備は不要だし安中貨物自体も積載量が減ってきており休止が目に見えている。この貨物列車が廃止となれば信越本線高崎~横川間は折り返しの普通列車のみとなる。
また211系は車両老朽化しており、何らかの車両に更新する必要がある。その更新に合わせ非電化化してもおかしくはない。
またぐんま車両センターは八高線用にハイブリッド気動車HB-E220系を保有する。このため非電化化しても気動車の保守を高崎支社で行うことができるため車両運用に問題はない。このため気動車化しても何ら問題はない。
そもそも211系4両固定編成導入前は107系で昼間は主に2両編成だたっため、気動車化により4両固定編成から2両編成に減車することが可能なため、昼間や土休日朝夕に動力費の削減にもつながるだろう。
1.4. 磐越西線会津若松~喜多方間で非電化化
(2021.8.5 追記)福島民友新聞によれば、2022年度に磐越西線会津若松~喜多方間を非電化化するとしている。が、当然福島県と沿線自治体は反発しているわけだが、JR東日本によれば直通列車を廃止するとは言っていないとしている。いや、キハ110系列やGV-E400形を郡山~会津若松・喜多方間で走らせるつもりでもあるのだろうか?この辺りは2022年3月ダイヤ改正でどのように変化するのかわかるはずなので、そこで改めて着目したい。
1.5. 仙石線高城町~石巻間でハイブリッド気動車増投入で非電化化か
(2024.5.24 追記)JR東日本では2025年3月ダイヤ改正にてHB-E220系4両固定編成5本を仙石東北ラインに投入し、仙石線普通電車のうち高城町~石巻間を気動車に置き換える見込みがある。もしそうなれば仙石線高城町~石巻間の電車が全廃し電化設備が必要なくなることから非電化化できる。
1.6. 奥羽本線新庄~院内間で非電化化決定!
(2024.11.27 追記)また奥羽本線新庄~院内間では2024年7月の大雨による不通からの運転再開に際し、非電化化による運転再開が決定している。
このほか鶴見線や南武支線では非電化区間でも走行可能な燃料電池車の走行実験を行っている。ただ燃料電池車の実用化は当分先であること、南武支線は2016年3月26日に開業した小田栄の利用が好調で輸送密度が8,000人/日・往復を上回ったこと、鶴見線では平日朝ラッシュ時に最短3分間隔運転を行っており鶴見を最短4分で折り返す必要があることから蓄電池車の場合鶴見駅構内での停車時間では充電が間に合わないことなどから難しいだろう。
2. JR東日本管内で単線化へ
またJR東日本の計画では複線区間の単線化も必要に応じて検討するとしている。
今回の説明資料では19ページに「非電化や単線化の検討」「ホーム上の設備の削減・仕様の見直し、線路数の削減」と並列して記載していることから、単線化は駅構内の線路数減少とは別物としている。
完全複線化をしている路線を一部単線化しようとすると、列車交換設備のために分岐器を用意し信号も設けなくてはならない。しかもJR貨物運転区間においては列車交換するにあたり長大な列車交換設備を必要とするため単線化は費用対効果が高くない。そう考えるとたとえ普通列車の本数が1時間に1本以下だったとしてもJR貨物の運行があり完全複線化している東北本線や上越線が単線化することは到底ない。
ただJR貨物運転区間であったとしても、羽越本線間島~奥羽本線川部間の複線と単線が断続する区間では一部の複線区間を単線化する可能性は考えられる。
ではどのような区間で単線化を行うのだろうか。
2.1. 単線化大本命は両毛線と奥羽本線か
まず考えられるのは両毛線佐野~岩舟間、及び奥羽本線及位~院内間。ともに1駅間しかなく両毛線は片道最大でも毎時3本、奥羽本線は毎時1本しか運転がないことから、佐野線は佐野と岩舟に列車交換設備があれば問題ないないし奥羽本線は及位駅構内は単線にして院内だけ列車交換設備が残っていれば十分運べる。
まあ奥羽本線及位~院内間の複線は在来線特急「つばさ」運転時代には重宝されていたので完全に無駄だったわけではない。しかし新庄を境に物理的に直通できない現在、複線を残す必要はなく合理化の対象に入る可能性は高いだろう。
ただし、両毛線でも前橋~駒形間は複線のまま残す可能性が高い。というのも同じ両毛線でも前橋~駒形~伊勢崎間は朝ラッシュ時に毎時5本運転しており、駅間隔を考えると東武野田線のようなネットダイヤにするのは難しく、複線でないと捌ききれない。もっとも伊勢崎まで高崎線用10両編成を乗り入れさせて減便を図れば行けるのだろうが、そんなことをするくらいなら利便性確保のためにも複線のまま残しに行く可能性の方が高いのではないだろうか。
2.2. 外房線の単線化は沿線自治体の反対で厳しそうか
次に外房線東浪見~長者町間及び御宿~勝浦間。外房線特急「わかしお」の運転はあるが、せいぜい最大毎時2本程度の運転であること、単線区間を挟んでいることを考えると単線化してもおかしくはない。
ただ外房線の部分複線化はもともと国鉄が勝浦までの完全複線化を計画したものの上総一ノ宮までの複線化で凍結しており、その後国鉄分割民営化後に沿線自治体が費用を出して行ったものであるため、やすやすと単線化できなさそうだ。
2.3. 中央本線は一部単線化の可能性有り
このほか特急列車やJR貨物の運転のある中央本線でも複線区間縮小の可能性はある。そもそも中央本線では当時特急「あずさ」運転区間だった新宿~松本間の完全複線化を着々と進めていたが、残り普門寺信号場~上諏訪~岡谷間だけを残していたところ工事凍結と分割民営化でこの区間だけ単線として残ってしまった。
この後JR東日本もわざわざ複線化するまでもないとして単線のまま営業し続けているのだが、茅野は大きな駅で折返しが可能なこと、上諏訪は貨物列車も含めて列車交換が可能なことを考えると茅野~普門寺信号場間の複線は必要不可欠ではない。そう考えると設備合理化及び分岐器通過に伴う速度制限解除を目的に普門寺信号場を廃止、茅野~普門寺信号場間の単線化を図る可能性はありそうだ。
あとは篠ノ井線田沢~明科間も1駅間だけ複線であるが、JR東海特急「しなの」の運転区間であり他社に影響がることから単線化はなさそうだ。
2.4. 羽越本線・奥羽本線など日本海縦貫線での単線化はあるのか
次に羽越本線や奥羽本線など日本海縦貫線の単線化はあるのか。
先述した通り、完全複線であれば単線化するにも信号設置が必要なほか貨物列車交換用の長い交換設備が必要なため得策ではない。しかしそもそも羽越本線間島~奥羽本線川部間の複線と単線が断続する区間では複線と単線との境界に必ず信号設備があり、実質部分的な複線区間が長い列車交換設備と化しているほか保守にも手間がかかる。そのため羽越本線や奥羽本線の一部単線化は線路保守には効果的だし、場合によってはJR貨物がJR東日本に支払うアボイダブルコストの削減につながる可能性もある。そうなればある程度の単線化はJR貨物の支持を受ける可能性まで考えられる。
そう考えると2020年の線路設備的にすぐにでも単線化できそうな区間は、羽越本線府屋~鼠ヶ関間、西目~羽後本荘間、奥羽本線二ツ井~前山間、碇ヶ関~長峰間、石川~弘前間の各1駅間などとなる。このうち現在の設備から線路除去のみを行い単線化する場合前山と長峰で列車交換ができなくなるが、ともに両隣の駅で列車交換ができるので大きな影響はない(しかも奥羽本線内で交換できる駅のうちは複線の端である)。
このほか信越本線高崎~横川間も完全複線であるが、普通電車が朝に3運用あることから列車交換駅を最低2つ設けなくてはならない。そう考えると安中の駅改修だけでは足りない。そこまでして単線化する効果があるのかと言われると怪しい。
このようにJR東日本管内で単線化できるところは限られており、大規模に行うことはできなさそうだ。
3. 結び
今回の2021年3月期決算発表資料で公表したJR東日本管内の一部路線の非電化化や単線化の検討は、経営合理化に伴い行うものである。
しかし非電化化と蓄電池車などへの置き換えができるのは中央本線辰野~塩尻間や青梅線青梅~奥多摩間などに限られるほか、単線化に至っては1駅間程度の部分複線の単線化くらいが限度のようで、一般利用からすればほとんど影響のないものが多い。
今後JR東日本管内の一部路線の非電化化や単線化でダイヤ改正にどのような影響が出るのか、見守ってゆきたい。
コメント
単線化については、
信号設備の面から見ると交換駅を整備すると新設になるのでコスト大だが、一方で保線、土木、電力についてはメンテナンス箇所が半分になるので、そのコスト減はとても大きい。
そのためトータルで考えると貨物街道であっても単線化は充分に有り得る。