なぜ北陸新幹線はほぼ完成している福井まで先行開業しないのか

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なぜ北陸新幹線はほぼ完成している福井まで先行開業しないのか

2024年3月に金沢~福井~敦賀間が延伸開業する北陸新幹線。2022年8月には金沢~福井間ではほぼ設備工事が終わっています。であれば先に金沢~福井間を開業して県庁所在地福井に新幹線をもってきても良かったのではないでしょうか。

1. なぜ北陸新幹線敦賀延伸は遅れているのか

2015年3月14日に金沢まで延伸した北陸新幹線。東京と北陸地方の富山・金沢を2時間30分程度で結ぶようになったほか、北陸新幹線は大雨でも大雪でもまずとまらない北陸最強の交通機関として君臨しています。もはや富山と金沢にとって必要不可欠な鉄道と言っても過言ではありません。

そんな北陸新幹線は2024年3月に金沢~福井~敦賀間で延伸する予定です。福井県への乗り入れをもって北陸3県すべてに東京までの直通列車と大雨でも大雪でもまずとまらない交通機関の整備が完了することになります。

ただ北陸新幹線の金沢~敦賀間延伸は当初2023年春に実施予定でした。一時期東京オリンピックの兼ね合いで金沢~福井間だけ先行して3年繰り上げて2020年7月までに開業させようという構想もしましたが、工事が間に合わず先行開業に至りませんでした。福井県の県庁所在地かつ最大の都市は福井ですから、敦賀が無理なら福井まででも先行開業というのは一理ある話でしょう。

もっとも開業予定を3年も繰り上げた2020年には間に合いませんでしたが、2022年8月には小松~福井~越前たけふの各駅間の構造物および駅舎は完成しています。あとは線路を敷いて走行試験を行えば当初の予定通り2023年3月の開業に間に合うペースでした。

ただ1つ大きく遅れた工区があります。新たな終点となる敦賀駅です。

当初の予定では新幹線の標準軌と在来線の狭軌を行き来できるフリーゲージトレインを導入する予定でした。このため敦賀駅で新規に建設するのは北陸新幹線のホームのみの予定でした。が、車両開発計画が中止となりフリーゲージトレインの導入ができないことから、敦賀駅で北陸新幹線と在来線特急を乗継させることとしたのです。

この在来線特急発着スペース2面4線を敦賀駅北陸新幹線ホーム2面4線の下に整備することとなったため1フロア増加することになり設計も変更することになりました。これにより工期が伸びてしまい、金沢~敦賀間全体の開業が1年遅れ2024年3月開業となったのです。




2. なぜ福井先行開業をしないのか

とはいえ金沢~福井間はほぼ完成しており、2023年3月の開業に間に合わせることはできました。福井県としても最大の都市である県庁所在地福井に東京からの直通の新幹線が通ってくれれば経済効果は大きく出るはずです。むしろ地方都市の敦賀のせいで1年開業が遅れたのであればたまったものではありません。

実際に東北新幹線では東京~仙台~盛岡間が1976年開業予定から1986年開業予定まで10年繰り下がってしまい、先行して大宮~盛岡間を1982年春に開業すると公表、6月まで春というこじつけまでして1982年6月23日に大宮~盛岡間で暫定開業したことがあります。工期が遅れているわけですから出来上がった一部区間から開業させたことはあります。

北陸新幹線でも当初2023年3月開業予定としていたことから、構造物がほぼ出来上がっている金沢~福井間だけでも先行開業させて、完成が間に合ったところから順次開業させることもできたはずです。

ではなぜ金沢~福井間の先行開業を2023年3月に行わず、2024年3月の金沢~敦賀間一斉開業を選んだのでしょうか。




3. 福井駅新幹線引き上げ線問題

1つ目が北陸新幹線の引き上げ線問題。敦賀延伸時に福井駅には2線の引き上げ線を用意するとしていますが、これは敦賀でも列車の折り返しを行う前提での話で、福井に必要な列車本数を全て福井でお折り返させる場合には引き上げ線がもう2本必要になります。たった1年で使わなくなる引き上げ線のために多額の費用をかけるのでしょうか。

ただ、もし北陸新幹線暫定開業として金沢〜福井間折り返し列車をを単線並列で130km/hで運転すれば、運用上福井駅の引上げ線は建設しなくて済みます。もっとも本開業とは言えないですが、大雨などで在来線の北陸本線が止まった際に救済として使えなくはないはずです。そもそも新幹線の本来の意義は在来線の線増ですから、在来線特急が不通の際にすでにできた区間を使って新幹線を先行で走らせることは理にかなっていると言えるでしょう。

なお金沢~福井間で北陸新幹線W7系を単線並列で運転する場合、2本の列車が必要で概ね1時間間隔で運転することが可能です。JR西日本では北陸新幹線用車両W7系を敦賀延伸に向け11本増備しており、うち8本は2023年3月までに投入が済んでいます。敦賀延伸用W7系の多くを2023年3月までに投入したのは当初敦賀延伸を2023年3月ダイヤ改正に行う予定だった時の車両製造計画のままで、半導体不足などで多少車両製造時期が遅くなり3本が2023年4月以降の投入にずれ込んだことによります。

もっとも既存の特急「サンダーバード」にはかないませんが、在来線の不通時の救済としては使えます。金沢~福井間の北陸新幹線全駅が北陸本線の既存駅と接続するので、在来線特急とみなして在来線特急料金で走らせればいいだけのことですし。




4. 在来線特急と福井駅で乗り継ぎ問題

2つ目が在来線特急との乗り継ぎ問題。現在金沢で実施している北陸新幹線と在来線特急の乗継割引を福井に移すことになるが、大阪・名古屋~金沢を利用する流動が乗継になるため仮設にしてもかなりの改修を行わなければ間に合わない。

また福井駅での在来線折り返し行ってはいるが、も特急「サンダーバード」「しらさぎ」全列車が折り返せるほどの折り返し容量がない。このため北陸新幹線を福井まで本開業させて福井で北陸新幹線と在来線特急を乗り継がせるためには、在来線側も折り返し設備増強を行わなければならない。

たった1年しか使わない大掛かりな乗継設備をつくろうというのでしょうか。

ただ、早朝深夜に1日2往復運転している特急「ダイナスター」は金沢~福井間しか運行がないため北陸新幹線福井仮延伸により早朝深夜のみ北陸新幹線金沢~福井間で在来線特急料金扱い130km/hで運転することはできなくはない。しかも金沢で富山・東京方面列車と対面乗り換えできることから利便性は高いはずだ。

もっとも1日2往復の運転のためだけに設定するくらいなら在来線特急のままでも良いではないかと思う人はいるだろうが、先述したように大雨や大雪の時などに動く北陸最強の交通機関を一刻も早く延伸することで福井を孤立状態から防ぐ狙いもあるので行政側が資金を出してやればいい。そもそも北陸新幹線の構造物の資産は鉄道・運輸機構なわけだし。




5. 並行在来線の分離時期の問題

3つ目が並行在来線分離問題。新幹線開業区間に並走する在来線は既存の会社と別会社に運営させることができる。北陸新幹線敦賀延伸に伴う並行在来線分離では金沢~大聖寺間をIRいしかわ鉄道、大聖寺~福井~敦賀間をハピラインふくいに移管する。

ただ、北陸新幹線を福井まで延伸してしまうと、先に北陸本線金沢~福井間を先行して経営分離、その後北陸本線福井~敦賀間をさらに分離と2段階に分けて分離せざるを得なくなる。

また1年ごとに境界が変わってはその手続き等が手間である。というか、移管直後にこれらの仕事があると本来行うべき安全な運転が脅かされかねない。

このため、北陸新幹線の福井先行延伸や金沢~福井間暫定開業をしてしまうとその時点で並行在来線として分離するかしないかの選択を迫られ、もし暫定開業であっても北陸新幹線延伸時に北陸本線をJR西日本のまま残してしまったらずっとJR西日本の在来線として存続しなくてはならない。東北新幹線の1982年6月23日の大宮~盛岡間暫定開業から1985年3月14日の上野乗り入れ開始まで東北本線では上野発着の在来線急行列車を多数運行することで補完していたが、これは東北新幹線も東北本線もともに同じ日本国有鉄道だからできたのであって、経営分離前提で普通列車しか走らなくなるJR西日本北陸本線→IRいしかわ鉄道・ハピラインふくいではできないのである。

そう考えると北陸新幹線福井先行延伸をできない最大の理由は在来線の北陸本線経営分離により北陸新幹線が線増とみなせなくなることを見越しているため、設備が完成していても転換できない以上先行開業することができないと言えそうだ




もっとも石川県のIRいしかわ鉄道はJR西日本北陸本線を2015年3月と2024年3月の2回に分けて継承することになるのだが、9年も開いている。まあ数年も空いていれば2度に分けてもいいのかもしれないが(本来は1度に継承するのがいいのだろうが、そこは国策なので)、1年しか開かないのに2度に分けて継承させる必要があるかというと、手間の方が上回る。コスパが悪く、民間企業でもやらないし民間企業と同様の対応を今回の北新幹線敦賀延伸では国策としてとったと言えよう。

そう考えると手間の都合で福井延伸を先行開業せず敦賀まで一括延長を行ったというのが一番の理由なのだろう。


6. 結び

北陸新幹線の福井先行開業は、福井県の経済効果を考えれば一考の余地があったことでしょうし実際に各種会議で検討していました。

ただ、あと1~2年すれば北陸新幹線は敦賀までつながりますので、そこまで粘りましょう。よほどのことがなければ北陸新幹線の敦賀延伸は実現しますから。

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