広島電鉄では、3月24日、プレスリリースにて2017年4月10日にダイヤ改正を行うと公表した( http://www.hiroden.co.jp/topics/2017/0324-traindia.html )。今回はこれについて見ていく。
1. 花形1系統は輸送力増強
今回のダイヤ改正では市内線区間(つまり路面電車区間)で大規模なダイヤ改正となる。県外への玄関口となる広島駅から広島市中心部となる八丁堀・紙屋町・市役所を経て県内離島や四国への玄関口となる広島港を結ぶ花形の1系統は、平日朝は単車を連接車に置き換えて輸送力増強を図り、平日夕方は連接車を1本増発した。
また日赤病院前発の初電を8分繰り上げることにより、道路状況がよほど悪くない限りは広島市中心部から1系統を使うことにより10分の乗り換え時間で広島6時ちょうど発山陽新幹線「のぞみ108号」東京行きに乗れるようになった。
2. 広島駅と広島港を結ぶ5系統も増便
今回のダイヤ改正では広島駅と広島港をダイレクトに結ぶ5系統も増発となる。2011年から昼間毎時5本(12分間隔)としていたものを、今回2017年4月10日のダイヤ改正で土休日の午前11時ごろまではもとの毎時6本(10分間隔)に戻した。
また、広島港発の初電を8分繰り上げ、白市・五日市両方面の山陽本線との接続を改善した。
3. 2系統も土曜日運行間隔短縮
観光地宮島へ向かう2系統も今回増発を果たした。土曜日を9分間隔から日曜・祝日同様の8分間隔へと短縮し、輸送力を増強した。
また平日朝は広電西広島発広電宮島口行き下り列車を1本増発し、編成数を増やすことなく混雑緩和を図っている。
4. 強気の広電20円値上げ
広島電鉄では今回のダイヤ改正後である2017年8月1日に運賃を改定すると公表した( http://www.hiroden.co.jp/topics/2017/pdf/0324-trainfare/trainfare.pdf )。
今回の運賃改定では、軌道線・鉄道線ともに全区間で20円の値上げとなり、広電西広島(己斐)を跨ぐと40円値上げされる可能性がある。本年4月1日には増発後に同じ路面電車の京福が値上げしたが、京福の場合は定期券利用率を高めるための施策要素も含まれており一概に値上げとは言い切れない面もあったが、今回の広島電鉄の値上げは京福より運賃が安いこともあり全面的に値上げとなりそうだ。
中身を見ていくと、定期券の割引率はほぼ変わらず、普通運賃の値上げ分とほぼ同水準での値上げとなった。軌道線の普通運賃は160円から180円に20円値上げし、広島市旧市内(中区・西区・南区・東区など)のバス1区運賃の180円に揃えた。但し、あくまでこの旧市内バス1区運賃は広電バスと広電グループの広島バスや芸陽バスなどであり、広電バスグループではない広島交通や中国JRバスとの競合路線は初乗り160円であり、値上げの予定はない。そして主に郊外に向かう広島交通と中国JRバスであるが、広島市中心部と駅を発着地とするため、バス・路面電車ともドル箱区間の広島駅~八丁堀・紙屋町・バスセンターが競合の関係でバスが160円なのである。また定期券も見ていくと、電車運賃改定後は通学定期券は依然割引率の関係で路面電車の方が安いが、通勤定期券はバスの方が安くなる。そのため広島駅~八丁堀・紙屋町間では路面電車からバスへ乗客がシフトし(皮肉にもバスの方が所要時間は短いし停留場数が少ない)、利用離れにつながるのではないかと思われる。この区間のバス定期券の場合広電バスと広島バスの共通定期券にした方が利用者にとっては利便性が高いため、同じ広電グループだとしても広島電鉄の収益低下は避けられなさそうだ。広島電鉄の企画定期券「どっちもパス」も広島駅~八丁堀・紙屋町間では1カ月当たり電車定期券+90円となり、もはやほとんど差が無くなってしまう。もはやドル箱区間は収益優秀なバスに譲るということなのだろうか。2018年度の駅前大橋線開通による電車の高速化が狙えるのに残念である。
もっと悪影響が出そうなのが鉄道線である宮島線も運賃値上げをするということだ。2014年4月の消費税改定時には軌道線のみ10円値上げで鉄道線の運賃は据え置かれたどころか、軌道線と連絡する場合には10円値下げされた。これはJR西日本との競合が考えられ、市街地区間では市中心地の交通網を広電グループのバス各社で概ね独占していることや、西広島でJRから乗り換えて市中心部に向かう需要に関しても増収を狙えること、競合する広島交通や中国JRバスも消費税転嫁の影響で値上げしたこともあり軌道線では難なく値上げできたものの、鉄道線はJR山陽本線と極めて近接しており、速いJRと安くて本数が充実した広電という構図になっていたために値上げできなかったものと思われる。
今回の運賃値上げで鉄道線初乗り2キロまでの運賃が現金払いの場合120円から140円に20円値上げされるが、この140円というのはJR西日本の初乗り3キロまでと同額となる。広電の場合ICカードPASPYを利用すればPASPY割引で1割引(ただし10円未満端数切り上げ)されるので130円での乗車はできるが、所要時間は圧倒的にJRが速いため乗客がシフトする可能性は十分にある。さらに軌道線との連絡の場合今回の運賃値上げで広島駅~新井口間および広島駅~五日市間の利用ではJRの方がPASPY割引を考慮しても安くなる見込みだ。また2016年の國鐵廣島の解体により新型車両227系(Redwing)による運行が主になり、広島~宮島口~大野浦間で主に通過運転を行う快速「シティライナー」も土休日の昼間に復活した。この快速「シティライナー」の設定により五日市や宮島口などの快速停車駅では飛躍的な所要時間短縮が図られ、広島市中心部に接続する駅を根こそぎ通過するという欠点はあるものの広島駅やそこから新幹線利用や広島空港リムジンバスへの乗り継ぎ客にとっては重宝される列車となったのだ。今回の広電の値上げはまさに快速「シティライナー」に白旗を振った形となり、乗客減少は避けられなさそうだ。また鉄道線の定期券も値上げにより15キロまではJRの方が安くなる(15キロを超えるのは広電西広島~広電宮島口間などで、ほぼ宮島線全線を利用しないといけない)。定期客のJR離れも深刻化しそうだ。
5. 結び
今回2017年4月10日の広島電鉄の市内線各系統のダイヤ改正では増発・輸送力増強や早朝の利便性向上など改善傾向が見られた。
しかし2017年3月25日にダイヤ改正を行った京福と同様、ダイヤ改正後に運賃改定による値上げを行おうとしている。
JR西日本やアストラムラインなど周辺の競合路線が手強くなる中、2018年度の駅前大橋線の開通で輸送人員を延ばせるのか、その後のアストラムライン西広島延伸で西風新都やその周辺のニュータウンからの乗り換え需要を市内線が受け止めることができるのか、見守ってゆきたい。
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