JR東日本は2022年7月28日、プレスリリースにて輸送密度2,000人/日・往復未満の線区の収支状況について公表した( ご利用の少ない線区の経営状況を開示します )。今回はこれについて見ていく。
1. JR東日本に路線廃止は消極実施か
今回のJR東日本のローカル線見直しは、輸送密度2,000人/日・往復未満の路線について行った。
これまでの近畿日本鉄道やJR北海道、JR西日本など他社で行われてきている路線見直しは、ただ利用が少ないから廃止するだけではなくキハ40系列などの車両老朽化による車両更新数を極力少なくし新製車両数を減らすために行っている側面もあった。が、JR東日本は2021年3月13日ダイヤ改正までにキハE130系やGV-E400系などの新型車両を続々投入し、普通列車用キハ40系列を全て運用から外して順次廃車としている。つまり、直近で置き換え対象となるローカル線車両がJR東日本にはないのが1つのポイントだろう。
もっとも10年後にはキハ100形やキハ110形の車両更新を行う必要性が出てくるため今のうちに路線廃止をして将来の新製車両数を減らす向きに働く可能性は十分ある。が、2020年度に4,000億円の単年度赤字を計上したJR東日本であってもJR北海道やJR西日本と比べて動きが悠長に見える。
というのも、JR東日本は2011年に不通となった気仙沼線柳津~気仙沼間や大船渡線気仙沼~盛間ではJR東日本が自社が運営するバス輸送システムにより従来と同水準の安い運賃で運営しているほか、2022年10月1日に復旧する只見線会津川口~只見間では線路設備などの施設を福島県が所有することで維持コストを抑えようとしている。また2011年に不通となった山田線釜石~宮古間は運転再開にかかる費用のほとんどをJR東日本が自社負担し、三陸鉄道に譲渡して三陸鉄道リアス線として運転再開を果たしている。
もっとも2010年に運行を停止した岩泉線のように廃線となった例もあるが、JR東日本では不通となった鉄道路線の復旧や代替についてこれまで数多くの策を見出している。
2. そもそもいつ実施するのか
今回のJR東日本のローカル線見直しは、そもそもいつ実施するのだろうか。
先述したように直近のローカル線車両の置き換え見込みがないJR東日本であるが、いつ路線廃止や転換などを実施するのだろか。
先述したようにJR東日本ではさまざまな路線廃止・転換をこの10年程度で行ってきたが、その原因の全てが列車の不通にある。
そう考えると輸送密度の低い、つまり利用者の少ない線区から時期を決めて廃止するのではなく、不通になるまではJR東日本が責任を持って自社で運営するが、不通となった際に県など外部からの支援がなければ廃止にする線区を明示したという意味合いが強いだろう。
つまり実際に路線廃止になるかはいつ不通になるかと県がどのように対応するか次第であり、JR東日本は基本廃止判断に放任である可能性が高い。
ある程度どのような路線はJR東日本自社で復旧し運転再開させるかの基準は見えそうだ。これらについて見ていこう。
3. 路線間にある運転再開への意欲の差
とはいえ、輸送密度2,000人/日・往復未満の線区全てが外部支援なしの運転再開を放棄したというわけではない。
そもそも一時的に不通となたとしても、数日程度で運転再開できる場合は輸送密度2,000人/日・往復未満の路線であっても運転再開を行っている。ただ運転再開に1か月以上かかる長期不通の場合は曽於限りではない。
2022年には7月~8月にかけ輸送密度2,000人/日・往復未満の磐越西線喜多方~山都間、米坂線今泉~坂町間、奥羽本線鷹ノ巣~大館間、花輪線鹿角花輪~大館間、五能線岩舘~鰺ヶ沢間、津軽線大平~三厩間の6線区が長期不通となっているが、このうち復旧見通しがついているのは奥羽本線鷹ノ巣~大館の運転再開まで5か月のみ(もちろんJR東日本自社負担による復旧)で、それ以外の線区は復旧見込みが立っていない。
もっとも奥羽本線鷹ノ巣~大館間が上記の中で唯一輸送密度1,000人/日・往復以上であるため運転再開を急いでいる可能性があるが、それ以外にも県庁所在地間を結ぶ列車を運転していること(特急「つがる」)、JR貨物による貨物列車を運転していることが挙げられる。運転再開に5か月もかかるというのはかなり作業が多いことを示しているが、そこまでしてでも運転再開させるという意欲も感じられる。
つまり、県庁所在地間を結ぶ特急列車やJR貨物による貨物列車を運転している区間は路線廃止せず、今後もJR東日本で運営する可能性が高い。
逆を言えば県庁所在地程度の都市間を結ぶ列車を運転していない区間は不通を皮切りに路線廃止や上下分離による設備移管を行う可能性が高い。これらの路線の存続を決めるのは県や沿線市町村であり、どこまで費用負担できるかによるだろう。
ただ、JR東日本では2022年に相次いで発生した長期不通において、県庁所在地間を結ぶ特急列車やJR貨物による貨物列車を運転していない区間でも濃淡をつけていたりする。先述した長期不通している線区では基本的にバス代行輸送を行っている。
が、奥羽本線では列車不通区間は鷹ノ巣~大館間であるが昼間は東能代~鷹ノ巣間でも運休しバス代行輸送を行っている。これは完全な運転再開まで昼間時間帯に工事を行うことで早期復旧を図るためだろう。
また、貨物列車の運転のない磐越西線でも、当初は喜多方~野沢間で不通となっていたが、野沢以西運転再開から約3週間たった2022年8月25日に山都~野沢間で1往復のみ運転を再開している。もっとも他の列車は運転再開をしていないのでバス代行は原則喜多方~野沢間で行っているのだが、それにしても1往復だけ線路設備を復旧させて運転再開させるのは不自然である。
そう考えると、山都~野沢間で1往復だけながらも運転再開をしたのは、磐越西線の全通をJR東日本も願っていると言って差し支えない。ただ、橋梁通行再開への費用負担が大きいこと、また福島県は2022年10月1日に運転再開を行う只見線で線路設備保有の経験があることから橋梁部の運転再開に関わる費用負担を福島県にさせたいのが狙いではないだろうか。
逆を言えば、そのほかに長期不通となっている米坂線今泉~坂町間、花輪線鹿角花輪~大館間、五能線岩舘~鰺ヶ沢間、津軽線大平~三厩間の4線区の運転再開はJR東日本は積極的には望んでおらず、存続させたいなら県や沿線自治体の援助、なければ消極的措置により廃止とするのだろう。
また陸羽西線では道路トンネル建設工事に伴い約2年間の運休を行っているが、こちらも国から現状復旧修繕費は出るのでおそらく2024年に運転再開する可能性が高い。
また飯山線戸狩野沢温泉~森宮野原間でトンネル修繕のため2022年10月1日~11月20日まで運休するが、こちらも積極廃止する気なら修繕せずに廃止にした方がよほど楽なはずだ。これらのことを考えても今回プレスリリースで挙げた輸送密度2,000人/日・往復未満を積極的に廃止しに行くとは考えにくそうだ。
4. 輸送密度2,000人/日・往復の区間一覧
ではJR東日本管内の輸送密度2,000人/日・往復の区間はどのようになっているのだろうか。今回のプレスリリースにて公表した線区は以下の35路線66線区となっている(画像拡大可能)。
この図では輸送密度2,000人/日・往復未満の線区について、黄色の1,000人/日・往復~2,000人/日・往復の12線区、オレンジの500人/日・往復~1,000人/日・往復の28線区、赤の500人/日・往復未満の26線区に色分けしている。
もっともJR北海道は輸送密度200人/日・往復未満の線区で順次積極的に廃止しているし、JR西日本も小野田線や美祢線などの輸送密度の区分け手法からして輸送密度500人/日・往復未満の線区で積極的に廃止する気満々である。
が、JR東日本の各線区の輸送密度を見る限りどうやら輸送密度で積極的に廃止にしようというのは感じない。もっとも小分けにして実態を把握しやすくしようとしているのもあるが、花輪線は全線平均輸送密度が500人/日・往復を切っているはずなのに、鹿角花輪で分けて記載することで大館~鹿角花輪間は2019年度の輸送密度537人/日・往復とJR西日本なら廃止にするであろう輸送密度500人/日往復未満の基準を上回っているのである。もし花輪線を積極的に廃止したいのであれば、全線の輸送密度しか示さずに輸送密度500人/日・往復未満であることを理由に廃止に持ち込みたいはずだ。
ただ、その花輪線は2022年8月より鹿角花輪~大館間で不通となっている。この区間は花輪線では最も利用が多い区間にあたるが、もしこの鹿角花輪~大館間が廃止となれば残る好摩~鹿角花輪間はJR東日本として孤立区間となる。もっとも輸送密度が79人/日・往復しかいない荒屋新町~鹿角花輪間は同時に廃止する可能性は高そうだろうが、好摩~荒屋新町間には八幡平市が税金をかけて新市役所前に移設させた北森駅がある。そう考えると好摩~荒屋新町間は岩手県が何らかの支援を行い維持するか、IGRいわて銀河鉄道に移管させて残す可能性も考えられそうだ。
なお、同様に他社移管での存続が見込めそうなのは、八戸線鮫~久慈間や山田線全線の三陸鉄道移管が考えられる。もし山田線全線が三陸鉄道に移管すれば三陸鉄道と東北新幹線が直接連絡できるようになり、三陸鉄道の観光列車を盛岡発着で運転することができるようになる。もし盛岡発着の観光列車設定で観光客から収入を得ることができるようになれば、三陸鉄道も増収となるし山田線も観光路線として存続することが可能なのではないだろうか。
もっとも県庁所在地間を結ぶ特急や貨物列車を運転している上越線や羽越本線・奥羽本線秋田~青森間は廃止する見込みはないし、現在JR東日本が自社努力で運転再開に向けて動いている。
そう考えると貨物列車の運行も県庁所在地間を結ぶ列車の運行のない路線は今後移管や不通の際に廃止が決まっていくのではないだろか。が、不通による廃止の場合さよなら乗車記念品の発売はないしいつ運行を停止してもおかしくない。そう考えるともし乗るのであればJR東日本管内は輸送密度2,000人/日・往復の区間は今のうちに乗っておくのがベストだろう。
5. 存続しても運賃は値上げか
では路線存続が決まったら運賃は従来通り据え置くのだろうか。
本来運賃上限の変更は国土交通省への認可が必要とされているが、時事通信の報道によればローカル線の運賃について鉄道事業者と地元との合意の上で届出のみで運賃上限を引き上げることができるように2022年6月より国土交通省で検討しているし、おそらく数年後には制度化される。
このローカル線運賃値上げは黒字企業の赤字路線でも適用になる見込みだ。この届出による値上げ対象線区は従来の運賃区間と通算となるのか、それともJR各社労組の意見を考慮して境界にて運賃打ち切り計算とするのかは判然としないが(JR東日本では法律上の鉄道事業廃止前の気仙沼線BRTおよび大船渡線BRTにて列車との運賃通算を廃止し境界駅で打ち切り計算とした前例はある)、いずれにせよ線区ごとの値上げが可能となる。
つまりもし路線を存続したとしても輸送密度2,000人/日・往復未満の路線への運賃値上げ提案はほぼ必発だろう。
6. 結び
今回のJR東日本のローカル線見直しは、輸送密度2,000人/日・往復未満の路線において、今後不通となった際に県などの外部からの支援がなければ運転再開を行わない方針を実質示すこととなった。
今後JR東日本で輸送密度2,000人/日・往復未満の線区についてどのような対応を取るのか、見守ってゆきたい。
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