JR東日本長野支社は10月26日、プレスリリースにて12月23日より中央本線特急「スーパーあずさ」にE353系新型特急車両を導入すると公表した( 中央線新型特急車両 E353系の営業運転開始について )。今回はこれについて見ていく。
1. E353系新型特急車両とは
今回2017年12月23日クリスマスイブイブの天皇誕生日に導入されるE353系は、1993年から導入された既存の中央本線特急「スーパーあずさ」用E351系を置き換えるべく新たに導入される新型車両である。
現在使用されているE351系は振り子式車体傾斜装置を用いているが、今回新たに導入されるE353系は空気バネ式車体傾斜装置を用いる。傾斜角も5度から1.5度に縮小する。振り子式車体傾斜装置から空気バネ式車体傾斜装置に変更したのは省メンテナンス化によるものであり、車体傾斜装置自体の機構を簡素化できるほか、線路や架線への負荷も抑えることができる。空気バネ式車体傾斜装置も東海道・山陽新幹線N700系や東北新幹線E5系などで多く使用されるようになりコストが下がっていることが挙げられるものと思われる。このようなことから、近年ではJR北海道キハ261系やJR四国8600系などで導入されている。
2. 定期「あずさ」の一部がスーパー化か
今回新しく導入されるE353系は、E351系全5編成を2018年3月のダイヤ改正までに置き換えることが確定しているが、新聞各紙報道によればその後もE257系なら一部も置き換えるということになっている。これはE257系を東海道本線特急「踊り子」に使用される185系の置き換えに使用するもので、そのE257系を2015年3月14日ダイヤ改正の内房線特急「さざなみ」の短縮で余剰車が出た幕張からではなく松本から捻出することになり、必要数を捻出するためだと思われる。
E353系が3編成導入されることにより12月23日から「スーパーあずさ」全8往復中半分に当たる4往復を新型車両のE353系に置き換えるわけだが、このまま1ヶ月に1本ペースで製造されるとすると3月ダイヤ改正時に使える編成数は6となり、現状のE351系より1編成多い計算となる。もし1編成増やせれば2往復の「あずさ」を「スーパーあずさ」に変更することができ、所要時間短縮が見込まれる。
3. 「あずさ」「かいじ」の全席指定席化も近いのか
2018年以降もE257系を置き換えるために導入されるE353系であるが、なぜ1編成多く導入されると読むのか。それは、近い将来、遅くとも2023年ごろまでに中央本線特急「あずさ」「かいじ」でも高崎線特急「スワローあかぎ」や常磐線特急「ひたち」「ときわ」同様全席指定席化されるからではないだろうか。
全席指定席化を行うにあたり自由席ニーズに応えるため座席未指定券の発券準備が必要になるが、それに必要なのがその座席が空いているか埋まっているかを示す座席上部ランプである。このランプの設置工事にも期間が必要であり、常磐線ではE657系を2012年より導入し2013年には一度全ての常磐線特急をE657系で統一したものの、2015年3月14日のダイヤ改正で品川乗り入れさせることに伴い全席指定席化を図ることとなり2014年より座席上部ランプなどの座席未指定券向け設備工事のため1運用を既存の651系で代走させたことがあった。今回新しく導入されるE353系は最初から座席未指定券対応ができるように設備が整っている可能性が高いが、既存の「あずさ」「かいじ」用E257系は2001年に導入されたことからも、そのような設備が一切ない。E257系に座席未指定券設備を備えるためには改造工事期間が必要で運用から外れなくてはならない。新聞各紙報道では2020年度までに「あずさ」「かいじ」を新型車両E353系で統一する方針であるようだが、臨時列車に関しては不透明であり臨時「あずさ」としてE257系が残る可能性はある。常磐線の場合にはE657系での統一がなされた後だったため古株の651系代走にしたが、中央本線の場合E353系が続々導入されE257系の一部も置き換えることが決まっている。そのため、E353系を2018年3月ダイヤ改正時点で1編成余分に造っておくことにより、無駄なく全席指定席化を図ろうとしているのではないだろうか。
また中央本線でもSuicaの導入が進み、2014年4月1日から韮崎〜松本間の特急停車駅を中心に一部駅で乗車券としてのみ使用開始し、2017年4月1日から韮崎〜松本間の全駅で定期券を含めSuicaが使用できるようになった。2014年のSuica一部使用開始はJR東日本がIC運賃を導入するにあたり長野県からきっぷの運賃とICカードの運賃を選ばせてほしいという要望から実現したものであるが、その後2017年に定期券も含め完全対応化しているということは、常磐線いわきまでと同様としたいのではないだろうか。となると、「あずさ」「かいじ」の全席指定席化と座席未指定券発券化も近いのではないだろうか。
しかし難点が1つある。それは中央線快速電車へのグリーン車導入が遅れていること。JR東日本のプレスリリースによると2020年度までに中央線快速E233系に2階建てグリーン車を連結し運行開始するはずだったのだが、(おそらく改良工事中の御茶ノ水駅の)バリアフリー対応などで大幅な設計変更を余儀なくされ、数年程度遅れることとなった。もし計画通り2020年度に中央線快速電車のグリーン車が導入されれば同時に「あずさ」「かいじ」の全席指定化や「中央ライナー」「青梅ライナー」の特急化も行えたかもしれないが、中央線快速電車のグリーン車導入の遅れがどのように影響するのかは見どころだ。
4. E351系の今後は
新型特急車両E353系の導入により既存のE351系が廃車となる報道が出ているが、果たしてどうだろうか。現在定期「スーパーあずさ」「あずさ」「かいじ」に使用されているのはE351系とE257系のみであるが、臨時列車「はまかいじ」には先述した定期「踊り子」で使われる185系、臨時「あずさ」にはかつての主力だった189系が使われている。となると、E351系の置き換えより先に国鉄時代に導入された189系や185系を淘汰するのが先ではないだろうか。
常磐線特急をE657系に統一する際、当初E653系はいわき~仙台間の特急列車へ転用するものの、651系は廃車予定で計画が組まれた。しかし震災によりE653系の常磐線特急存続が立ち消えとなり羽越本線特急「いなほ」や信越本線特急「しらゆき」に転用されることとなった。E653系の転用変更についてはやむを得ない事情があったが、廃車予定だった651系に関しても常磐線と関係のない高崎線特急「あかぎ」「草津」などに転用されている。となると、651系よりも新しいE351系も何らかの形で転用がなされるのではないだろうか。
5. 結び
今回の2018年3月ダイヤ改正では、中央本線特急「スーパーあずさ」が全て新型車両に置き換わり、その後も順次E353系を導入する見込みだ。今後中央本線特急が「かいじ」も含めて速達化されるのか、座席未指定券方式による全席指定席化があるのか、中央線快速のグリーン車導入はいつになるのか見どころが山のようにある。今後どのようなダイヤ改正を行うのか注目してゆきたい。
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