JR東日本水戸支社は6月23日、プレスリリースにて7月22日よりかつて特急「スーパーひたち」に使用されていた651系を普通列車として運用すると公表した( http://www.jrmito.com/press/170623/press_01.pdf )。またJR東日本は2017年内に常磐線普通電車用E531系を40両増備しようとしている。今回はこれらについて見ていく。
1. 651系、普通列車として運用定期化へ
今回のJR東日本水戸支社のプレスリリースによれば、7月22日より常磐線いわき~竜田間で特急型車両651系4両による普通列車が2往復運行される。このうち1番列車となるいわき9時22分発竜田行きは、いわきにて特急「ひたち1号」から4分の接続で運行しており、朝の東京・上野からの利用にもってこいの運行時刻となっている。
特急型車両の間合い運用による普通列車運用はかつてしばしば見られたが、現在ではホームライナーでの運用を除きほとんど無くなってしまった。しかもこれまでの間合い運用はあくまで車庫から特急発着駅までの間の回送列車を普通列車として旅客営業するものであり、今回のように定期運用から退いていた編成をわざわざ引っ張り出して就かせるものではない。では一体なぜかつて特急「スーパーひたち」として運用されていたものの現在定期運用のない水戸支社の651系4両編成を使用することになったのか、考察してゆく。
1.1. 651系投入は常磐線全線復旧後の特急運行のためか
JR東日本では2020年を目途にJR常磐線を全面復旧させる方針をとっている( https://www.jreast.co.jp/press/2015/20160307.pdf )。これまで常磐線が比較的長い区間で復旧した際には震災前と同水準の運行本数を確保しており、もし常磐線が全面復旧するのであれば、震災前までいわき~仙台間で運行していた特急列車を復活させる可能性が高い。
かつて運行されていた特急「スーパーひたち」は上野発着であったものの、いわき~原ノ町間は6往復、原ノ町~仙台間は4往復(ただし超繁忙期は5往復)の運行で、原ノ町発初電の14号と原ノ町行き最終の53号は7両編成だったものの他の列車はいわきで増解結を行うため4両編成であった。しかし震災直前の2010年12月には、現在の常磐線特急「ひたち」「ときわ」用車両E657系を導入するのと引き換えに、特急列車をいわきで系統分割する方針が記載されていた( http://www.jreast.co.jp/press/2010/20101206.pdf )。2011年に震災があり常磐線がいわき~仙台間で断続的に不通となったことで特急列車が運行できなくなったことから、いわきより南の区間のみ車両置き換え計画が進み2013年3月16日のダイヤ改正以降特急列車はE657系10両編成による運行でほぼ統一された。
しかし当初の計画でいわき~仙台間を運行する特急列車として運用するはずだった当時特急「フレッシュひたち」用だったE653系は全編成が特急「いなほ」「しらゆき」に転用改造され、常磐線から離れてしまった。また福島県・宮城県内での常磐線復旧工事では交換可能駅の有効長が8両までとなっており、震災前に行われていた上野までの直通運転による特急運行はE657系が10両編成であることから不可能となってしまう。かつての特急「スーパーひたち」用651系は高崎線特急「あかぎ」や伊豆方面観光列車「伊豆クレイル」などに転用され転属していくものの、水戸支社に7両編成3本と4両編成2本が配置され、ときより臨時列車を設定して運用していた。
つまり、水戸支社に残った特急型車両651系は来る常磐線の全面復旧時にいわき~仙台間を運行する特急としてあえて温存しているのではなかろうか。かつての特急「スーパーひたち」と同型車両であれば、正に震災前と同じ雰囲気にはなり、復興の象徴にもなりうると考えられる。またJR東日本としても特急型車両同士で事前にいわき乗り換えさせることにより、今後いわき~仙台間のみで運行される特急の運行をスムーズに行うつもりなのかもしれない。
1.2. 651系投入は富岡復旧時の1運用増加によるものか
次に考えられるのが、2017年10月ごろを予定に実施される予定の常磐線竜田~富岡間の復旧である。
竜田~富岡間は営業キロにして6.9kmあり、もし復旧すれば車両運用が1運用増えることになりそうだ。復旧は10月頃だとしても事前に試運転が必要で、それより前から準備しなくてはならない。現在いわき~竜田間ではE531系5両編成による運用のみとなっているが、もともといわきより北の区間では701系などの交流専用車が使われていたこともあり、水戸支社の車両より仙台支社の車両を多く使用していた。現在は線路が寸断されているためいわきと仙台を常磐線経由で結ぶことは不可能であるが、もし常磐線全面復旧となれば再び701系などの交流専用車が再びいわきに乗り入れる可能性がある。交直両用車のE531系は5両編成と10両編成しかないが、交流専用車の701系やE721系は仙台エリアの場合2両編成または4両編成なので、小回りが効くし5両運用するより省エネなのでなおさらだ。
となると、常磐線全面復旧時にはいわき以北ではできるだけ交流専用車である701系やE721系を運用したいのは自然で、できるだけ製造コストのかかり長編成となってしまう交直両用車のE531系は製造したくないはずだ。となれば既存の車両で何とかやりくりしたい。復旧は10月頃だとしてもその前に試運転を行いたいから8月までには運用増加分の車両を導入したい。そこで長きにわたり眠りについていた651系車両に白羽の矢が立ったのではないだろうか。このような状況からすると、651系の普通列車運用は2020年頃に予定されている常磐線が全面復旧し特急運転が再開されるまで続けられるのではなかろうか。
2. E531系を年度内に増備へ
また今年度2017年度中にE531系をさらに40両投入するという。内訳は10両編成の基本編成が3本と、5両編成の付属編成が2本となる見込み。2016年3月26日のダイヤ改正では5両編成の付属編成を投入することにより415系ステンレス車4両編成を淘汰し、茨城県内の車両を全てJR型車両に置き換えた。これにより常磐線・水戸線とも大多数のE531系とE501系になった。
2.1. E531系増備は、E501系を水戸線乗り入れを除き撤退させるためか
常磐線では2007年より上野(後に品川も)発着の普通列車に対しグリーン車を設定し、軒並みE531系に置き換えたことにより、たった60両しかいないE501系が余剰となってしまった。5両編成は水戸線で活躍しているが、10両では常磐線の水戸以北でも輸送力として余り気味で、水戸線では運用されない。現在10両編成の基本編成は4編成4運用となっており、点検時はE531系5両+5両で運行されるが、4運用使うのは朝だけでそれ以外の時間帯は2運用がせいぜいである。また乗り入れの南限が土浦となってしまっており、回送による運行コストの浪費も抑えたいところだ。
E501系は平日の朝こそ土浦発2本といわき発・草野発各1本(及び土浦発の1本が高萩で折返し土浦行きとして戻る1本)の設定であり、土浦~高萩間はグリーン車自由席の連結しているE531系10両編成で置き換えることができるが、いわきやその北の草野発でE531系10両編成を運行しようとすると、グリーン車自由席を連結するため高萩~いわき間の各駅にSuicaグリーン券売機を設けなくてはならず、非効率だ。そのためE531系のうち10両編成2本(主に朝の茨城県内用)と5両編成2本(終日運用用)でもってE501系を置き換え、E501系を水戸線直通を除く常磐線から撤退させようとしているのではなかろうか。
2.2. E501系は黒磯駅が完全直流化する東北本線に転属か
ではなぜE501系を追い出そうという発想にそもそもなったのか。
1つは先述のように土浦折返し時に佐貫まで回送しなくてはならないところを、E531系にしてしまえばそのまま直通できるようになるため。2つ目はJR東日本は地方線区で原則減車したいと考えており、拡張車体のE531系を導入すれば編成が短くなっても輸送できること。実際上述の置き換えを行えば10両削減することができる。3つ目は2017年度末に工事が完了しようとしている東北本線黒磯駅の構内全直流化と、北隣の高久駅寄りにデッドセクションを設けることにより交直セクションの設置が絡んでいるのではないだろうか。
現状、東北本線の普通列車は栃木県の黒磯で完全に系統分離がなされている。黒磯より南側の直流電化区間では宇都宮線の愛称が付けられ、グリーン車自由席を連結したE233系やE231系が10両や15両(宇都宮以南)で運用されるほか、最近ではかつて京葉線で用いられていた205系が4両編成に短縮され、主に宇都宮~黒磯間で運行している。対して北側の交流電化区間ではE721系や701系が2両編成単位で運用され、最大でも6両までの運用と南側より小ぶりとなっている。
通常直流電化と交流電化を跨ぐ区間では、521系(JR西日本北陸本線)やE531系(JR東日本常磐線)、TX2000系(つくばエクスプレス)、415系(JR九州山陽本線)などの交直両用車を用意したり、電力による制御をあきらめET122形(えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン)やキハ110系(JR東日本羽越本線)、亜種としてはHB-E210系(JR東日本仙石東北ライン)など気動車を用いることで代用しようとしている。これは駅構内で直流と交流を切り替えられるように設計されておらず、駅間で調整する必要があるためで、気動車が用いられている場合はもっぱら輸送量が小さい場合に限られる。これまで東北本線が黒磯を境に南側は直流専用車、北側は交流専用車で棲み分けできたのは黒磯駅構内で交直切り替えが可能だったためであり、駅構内での交直切り替えが非常に手間であり保守もままならないことから他のデッドセクション同様駅間に移すこととなった。しかし駅間に移すということは直流電化と交流電化を跨ぐ車両が必要となる。
現時点では東北本線向け交直流両用車両または気動車の新製は知らされておらず、新形式が入るとは思いにくい。交直両用車が黒磯~郡山間で運行するとなれば4運用が必要(現行の新白河・矢吹発着は従来通りE721系などの交流専用車で運行すると仮定)となり、E501系のように4編成しかないのに4運用にしては東北本線のデッドセクション区間では助けられる車両がないことから6編成は必要になるのであろう。もし平日朝のみ新白河乗り継ぎになるのであれば終日に渡り2運用で済むのであるが、それでも何かしらの車両は用意したい。もし終日黒磯~郡山間で運用に就かせるのであれば4両編成での導入が妥当だと思われ、予備車含め24両必要となるため、気動車での運用は費用対効果を見てもよくはないし、郡山車両センターに磐越東線用キハ110系列がいて整備はできるとしても、近い将来に導入される予定の電気式気動車の方に力を入れたわけであって、デッドセクションの移動に伴って従来型気動車を入れたくはないだろう。次回の2018年3月のダイヤ改正までに間に合わせたいのであれば、新車であれば今頃報道があってもおかしくないはずだ。
とはいえ東北本線にE531系を投入してしまうと、南側ではせっかく共通運用にしたE233系とE231系と別運用を組まざるを得ず運用が特にダイヤ乱れ時に厄介となり、東京から郡山までの直通運転がもし願望なのだとしたら5両編成ばかり製造させてE233系やE231系の基本編成とE531系の付属編成が連結していればいい。しかしそうはならなかったということは、常磐線のE531系比率を高めたうえでE501系10両編成を東北本線に転属させ、209系が房総各線に転用されたのと同様に短縮工事を受けて営業運転するようになるのではないだろうか。そうすれば常磐線としても運用の無駄が少なくなり、東北本線も無事低コストで交直両用車両を手に入れることができるようになるのではないだろうか。
もし黒磯駅構内直流電化化によって運用が変化する場合、工事自体は2017年12月を目途に終わるようだがダイヤ改正の反映はどうなるのだろうか。近年JR東日本仙台支社ではJR東日本本社含め他のJR線と独立してダイヤ改正を行っている。2015年は5月30日に仙石東北ライン開業により仙台駅より北側で大規模なダイヤ改正を行ったり、2016年8月26日には仙石東北ラインのうち1往復を女川乗り入れ延長するのに伴いダイヤ改正を実施したり、2016年12月10日には常磐線復旧に伴う大規模なダイヤ改正が行われている。仙台支社管内は新幹線を除き特急列車の運行が中止されておることからこのような柔軟なダイヤを組むことができ、黒磯駅が完全直流化するのであれば2018年3月より前にダイヤ改正を仙台支社独自で行う可能性もあるのではないだろうか。
3. 上野東京ライン常磐線系統も増発可能に
今回増備されているE531系は10両編成3本と5両編成2本であろうと述べたが、E501系転属関連を入れても10両編成1本が余る。この1本は一体何に使われるのであろうか。何故か常磐線の横浜乗り入れを主張する者もいるようであるが、東京~横浜間は東海道線の他に横須賀線も走っているので運行本数が多く、専用運用を組まなくてはならない常磐線E531系が横浜まで伸びるとは到底考え難い。もし万が一にもあり得るとしたら、2019年度末(2020年3月予定)の相鉄JR直通線開業により、蛇窪信号所(横須賀線と湘南新宿ラインが分岐のため平面交差する箇所)が逼迫し、横須賀線を減らさざるを得ないために東海道線を増発せざるを得ない場合くらいであろう。相鉄JR直通線が常磐線と直通する場合にはモノクラスのE231系緑の快速で十分であるからE531系の増備とは無縁と思われる。
そうなると平日朝の増発ともなるわけだが、混雑率も東京圏としてはさして高いわけではなく、地下鉄千代田線の直通する常磐緩行線の混雑の方がどちらかというと気がかりになるレベルだ。となると昼間や平日夕ラッシュ時の品川乗り入れ増発ということになるのだろうか。上野~品川間は20分あれば行けるから、1運用増やせば毎時1本を上野発着から品川発着に延長することができる。先述のE501系10両編成の置き換えが2017年E531系増備の主目的だったとしても故障に強いE531系に予備編成を1編成増やす理由がないし、E501系置き換え目的と想定すると増備されるE531系10両基本編成2本は朝に茨城県内でしか使用されない贅沢ダイヤとなっており、運行本数がそのままだとすると昼間のE531系の編成稼働率が下がることになる。そのようなことを考えると、昼間や平日夕ラッシュ時の常磐線品川乗り入れが拡大するのではないだろうか。
ではもし常磐線の品川乗り入れが増加するとして、どのように増発されるのか。現在上野東京ラインは高崎線・宇都宮線が昼間はそれぞれ毎時3本ずつあるのに対し、常磐線は特急「ひたち」「ときわ」が毎時2本乗り入れることもあり(そんなこと言ったら東京駅には東北新幹線や上越新幹線が乗り入れているが)、常磐線の料金不要列車は昼間毎時2本の乗り入れしかない。しかもそのうち毎時1本は特別快速であり、品川・新橋・東京から常磐線特別快速通過各駅(三河島・南千住・我孫子・天王台)に直通する列車は昼間毎時1本しかない。この4駅より乗降人員が少ない尾久は昼間毎時6本の東京・品川直通があるにもかかわらずだ。また足立区の中心駅である北千住からも昼間毎時2本しかなく、利便性が高いとは言えない。上野東京ラインは開業後2年を目途に増発を検討しているとしていたが、2017年3月4日の常磐線ダイヤ改正では特急「ひたち」「ときわ」を1分短縮するに過ぎなかった。そうなると上野東京ライン開業3年となる2018年3月のダイヤ改正にて常磐線普通列車の品川乗り入れ毎時3本化はあり得るのではないだろうか。
しかし昼間を増発するということは昼夕輸送力比を踏まえると平日夕ラッシュ時にも増発しなければならないということになる。現状では品川に乗り入れる常磐線は青の快速であっても緑の快速であっても原則終日15両であるが、増発するのであれば昼間の一部は10両で抑えてくるのではないだろうか。平日夕ラッシュ時においても高崎線・宇都宮線はせいぜい毎時4本ずつであって常磐線を増発するとしても品川発18時台と19時台に毎時4本にするくらいしかないのであろう。
4. 結び
今回の651系特急型車両による普通列車運用の定期化は、常磐線全面復旧に伴う運用を見据えたものとなっている。またE531系の増備は東北本線黒磯駅構内完全直流電化化の進展によるものの可能性が高く、2018年3月までに行われるJR東日本仙台支社ダイヤ改正は大きな話題となりそうだ。今後どのようになるのか見守ってゆきたい。
コメント
>蛇窪信号所(横須賀線と湘南新宿ラインが分岐のため平面交差する箇所)が逼迫し、横須賀線を減らさざるを得ないために東海道線を増発せざるを得ない場合くらいであろう。相鉄JR直通線が常磐線と直通する場合にはモノクラスのE231で十分であるからE531系の増備とは無縁と思われる。
要望のある鶴見の立体交差を設けて川崎方面に流せば大崎構内の平面交差問題は解決すると思います。
415系ステンレス車両を廃車にするならJR九州へ売却をしてほしい。銅鉄車両を置き換えるためです。