熊本日日新聞は2022年5月19日、新聞記事にて肥薩線復旧費用について報じた( 肥薩線の復旧費235億円、国が半分以上「肩代わり」 鉄道での再建促し調整 JR負担、実質50億円未満に )。今回はこれについて見ていく。
1. 肥薩線、復旧費用の方針固まる
今回の熊本日日新聞の記事では、2020年7月から運休している肥薩線八代~人吉~吉松間の復旧について報じている。
復旧には235億円かかるとしており、運転再開しても赤字が続く見込みの肥薩線を運営するJR九州は復旧に難色を示している。
また、今回の肥薩線不通は球磨川氾濫によって引き起こされたものだが、鉄道の肥薩線のみならず道路も被害を受けており、肥薩線と並走する国道219号線や県道158号線は未だに一般車両の通行ができない。
ただこれでは周辺住民に不便をきたすため、肥薩線の線路を仮設道路で埋め立てることで自動車の通行をできるようにしている。おいおい、線路を道路で埋め立てたらJR東日本気仙沼線や大船渡線のようにバス転換するだけではないか。このため肥薩線を不通前のままの位置で復旧させようものなら、仮設道路撤去のためにまずは道路の全面復旧を待たなくてはならないためまだ何年もかかってしまう。
しかも、肥薩線を利用していた地元住民は球磨川の氾濫で家を失っており、仮設住居からの高台移転を目指している。川べりの肥薩線に行くには時間がっかるようになるのでもし肥薩線が復旧したとしても地元住民はあまり乗ってくれない。
もっともそもそも沿線人口が少なかったのでJR九州も地元住民に頼りっきりにはしておらず、観光列車いさぶろう・しんぺいや蒸気機関車SLを運行することで利用促進を図ってきた。が、蒸気機関車SLはレトロがウリなだけに、真新しい白い枕木と真新しい鉄橋になり球磨川護岸および土砂崩れ防止用のコンクリートがむき出しの風景では蒸気機関車としての風情を失ってしまう。
つまり肥薩線が2020年以前のように復旧したところで、地元住民は乗ってくれないは蒸気機関車の風情は失われて観光客は減るはで以前のような利用者数は見込めないのである。しかも蒸気機関車を走らせても輸送密度は414人/日・往復しかおらず、路線バスでも昼間は3時間に1本もあれば十分に運べてしまう。そんな肥薩線の復旧は必要なのだろうか?
もっとも少しでもJR九州の負担を軽減するために復旧費用の約8割を国や県で負担することも検討しているが、再開後も赤字が続くのであれば運営はしたがらない。そう考えるともし肥薩線の設備のまま復旧したのであれば、肥薩線八代~人吉間をくま川鉄道い移管して運営させるほかないだろう。
2. 単線標準軌新線整備で将来的な路線存続へ!
では肥薩線がない中、人吉市民は町の外に出られないのか。そんなことはない。
そもそも人吉は九州自動車道が通っているため、高速バスが発着する。熊本~宮崎を結ぶ高速バスなんぷう号の他、福岡~宮崎を結ぶフェニックス号も全てが人吉ICに停車する。しかもそれぞれ毎時1本以上の運行があるので便にはあまり困らない。
そう考えると、そもそも2020年以前より人吉から市外に出る交通機関は肥薩線ではなく高速バスが担っており、そもそも肥薩線が担っていなかったのは言うまでもない。そう考えると肥薩線の復旧は必要ないと言っても過言ではない。
ただ、そのまま廃線にしては印象はよくない(前例の日田彦山線添田~夜明間のBRT化然り)。球磨川沿いの道路の復旧を待たずして人吉を結ぶ鉄道を復旧するには、新線建設しかない。
そこで新八代~宮崎間に単線標準軌の新線を建設し九州新幹線と直通させた方が良いのではないだろうか。
もっとも熊本県~宮崎県を結ぶ新幹線なんて基本計画路線には載っていないのでそのまま作られるとは思っていない。が、フル規格新幹線車両の直通だけであれば複線である必要はなく、単線でも構わない。また、宮崎から先に新幹線を延伸するとは到底考えにくいため費用対効果を考えれば複線はあまり効率的とは言えない。
この単線の中速鉄道は韓国の中部内陸線で既に実用化しており、200km/hでの運転を行っている。もっとも最高速度は新幹線の設計最高速度260km/hには劣るが、整備面で省力化できること、新幹線車両がそのまま直通・使用できること、つまり山形新幹線・秋田新幹線のようなミニ新幹線型車両をわざわざ開発する必要がないことを考えるとメリットが大きい。
また福岡・熊本~宮崎を結ぶ経路として残れば、途中の人吉・えびの・小林も鉄道が永続的に残せる。そう考えると新八代~宮崎間に単線標準軌の新線を建設し九州新幹線と直通することは地域の鉄道維持のために有用と言えるのではないだろうか。
3. 新幹線車両直通で需要はどうなる?
では新八代~宮崎間に単線標準軌新線を整備して九州新幹線と直通運転を行う場合、どの程度の需要が見込まれるのだろうか。
2004年3月13日の九州新幹線開業前、博多~西鹿児島(現在の鹿児島中央)間は在来線特急「つばめ」で3時間47分~3時間50分もかかっていた。このため航空機でも十分競合できることから福岡~鹿児島間で日本航空が航空機を飛ばしていた。
もっとも2011年3月12日の九州新幹線開業により「みずほ」なら最速で1時間16分、「さくら」でも1時間40分もあれば到着できるようになったので福岡~鹿児島間の航空機は1日1往復にまで減っている。
では福岡~宮崎はどうかというと、一応日豊本線特急「にちりんシーガイア」が直通運転しているが、博多~宮崎間を約5時間30分かけて運転している。博多から東京ですら東海道山陽新幹線で最速4時間46分、昼間でも5時間もあれば到着できるというのに、それよりも時間がかかっていては在来線特急で博多から宮崎まで乗り通そうとは思わない。
このためJR九州では2011年3月12日の九州新幹線全通に合わせ、博多~新八代間の九州新幹線「さくら」と新八代~宮崎間の高速バスを乗り継ぐB&Sみやざきを運行開始した。これにより陸路でも福岡~宮崎間を約3時間で到達できるようになったが、新八代で乗り換えを必要とし当然対面乗り換えでもないので利用は限られている。
おかげさまで福岡~宮崎間は2022年現在でも日本航空が1日4往復、オリエンタルエアブリッジが1日4往復の計8往復が飛んでいる。おいおい、オリエンタルエアブリッジは旧長崎県営航空なのだが、なぜ福岡と宮崎を結ぶ航空路線に手を出しているんだい。
とはいえ福岡~宮崎間には1日8往復の航空機が飛んでいることには変わりないので、単線標準軌新線を新八代~宮崎間に整備し福岡~宮崎間を新幹線車両で直通するようになり約2時間程度で運転できるようにあれば、航空機からの利用を奪えるので乗ってくれる。つまりこの単線標準軌新線は持続可能な鉄道路線として残すことができる。
また九州新幹線のみならず山陽新幹線と直通した場合、新大阪~宮崎間を約4時間で結ぶことができるようになる。もっとも宮崎空港は宮崎市街地から近いし鉄道でも3時間30分を超えているので航空機から鉄道へ需要が移るとは考えにくいが、所要時間が4時間程度であれば鉄道利用者が純増するので鉄道の維持という観点では有用な需要となり得る。
このため新八代~宮崎間の単線標準軌新線の建設は、南九州のみならず中国地方・近畿地方の広域ネットワークを形成できると言っても過言ではない。
もっとも新八代~宮崎間の単線標準軌新線において途中人吉、えびの、小林、都城市内に駅を設置すれば、肥薩線の広域利用の代替は十分できる。そう考えれば肥薩線不通区間にも便益は十分あると言えるだろう。
4. 単線標準軌新線整備で運行ダイヤはどうなる?
では単線標準軌新線整備で新大阪・博多~宮崎間で新幹線車両が直通できるようになった場合、どのような運行ダイヤが想定できるだろうか。
まず、現在の需要と人口を考えても、昼間は宮崎発着は毎時1本あれば足りてしまう。航空機との競合を考えると新大阪~宮崎間の「さくら」型タイプで運転すべきだろう。
ただ、山陽新幹線内で昼間に鹿児島中央発着と宮崎発着の「さくら」それぞれ毎時1本の合計毎時2本が必要とは思えない。
そこで考え得るのが、山陽新幹線直通車両を8両編成から6両編成に見直すことである。
そもそも九州新幹線は開業当初800系6両編成だったし、そのまま山陽新幹線へ直通することを想定していた。もっともすでに山陽新幹線では8両編成の700系「ひかりレールスター」を運転していたため山陽新幹線直通列車は8両編成とすることとなった。が、将来的に新大阪への直通を想定はしている西九州新幹線でもN700Sの6両編成を投入したことを考えるとやはりJR九州としては6両編成での山陽新幹線直通を図りたいようだ。
ただ、それでは山陽新幹線内で運びきれなくなってしまう。そこで考え得るのが6両編成を2本つなげた12両編成を用意することだ。
もし山陽新幹線と九州新幹線を直通する列車を6両編成を2本つなげた12両編成とすれば、途中駅での増解結も可能となる。このため、南側6両を新大阪~鹿児島中央間運転、北側6両を新大阪~宮崎間運転とすれば、新大阪~熊本間は両列車を併結した12両、熊本~鹿児島中央・宮崎間はそれぞれ6両編成での運転とすることができる。
これによりJR西日本は「さくら」の運転本数は昼間毎時1本のまま変える必要がないし、JR九州は宮崎発着利用を取り込むほかに熊本~鹿児島中央間の空席を減らすことができ輸送効率が上がる。つまり6両編成を2本つなげた12両編成の山陽・九州新幹線直通列車の運行はメリットが多いのだ。
もっとも山陽新幹線は16両編成の「のぞみ」を毎日運転しているのでホーム長は足りているし、九州新幹線は列車は8両までしか来ないが敷地的には12両までホームを延ばせるように設計している。このため12両編成の熊本乗り入れは可能だ。
さらにJR西日本では1988年12月28日から数年間、当時の0系6両編成を2本つなげた12両編成で「ウエストひかり」を運転したことがある。つまり、6両+6両による12両運転はJR西日本は実施したことがあるのだ。
しかもこの単線標準軌新線整備は工期を考えると2027年以降にしかできないことから、現在「さくら」用に使用しているN700系8両編成の老朽置き換え時期に差し掛かるので、車両更新と合わせて6両編成の新車を投入すればよい。
このため6両+6両編成による新大阪~鹿児島中央・宮崎間の「さくら」の運転は運用上十分可能と言えるだろう。
5. 建設費負担などの整備スキームはどうなる?
では新八代~宮崎間の単線標準軌新線の整備にあたり建設工事が必要なわけだが、どのように調達するのだろうか。
整備新幹線では受益者となるJRの運営会社が受益相当額の30年分を支払い、残りを国が3分の2、県が3分の1を支払う。
この整備新幹線建設スキームは費用対便益すら確保できない沖縄鉄軌道の整備にも活用する方針となっている。
今回の新八代~宮崎間の単線標準軌新線は、200km/h程度までしか出さないのであれば法律上新幹線とは言えないのかもしれないが、新幹線車両が直通するという意味では既存の新幹線を補完する路線になることは間違いない。そうなると新幹線とは関連の薄い費用対便益すら確保できない沖縄鉄軌道が整備新幹線スキームで整備するのであれば、より新幹線に近い単線標準軌新線は整備新幹線の整備スキームで整備するのは問題なかろう。
また今回の単線標準軌新線の整備は、今後の日本の新幹線鉄道網の拡充に大きく寄与する可能性が高い。2022年現在建設中の北陸新幹線金沢~敦賀間や北海道新幹線新函館北斗~札幌間は複線での整備は必要だろうし、北陸新幹線が新大阪まで伸びるとなった際にも複線は必要ではあるが、それ以外の新幹線をつくる時に果たして複線である必要はあるのだろうか?
例えば徳島や高知に新幹線をつくる場合は四国新幹線のメインルートから分岐後は単線で構わないだろうし、鳥取・島根に新幹線をつくる場合には山陰新幹線は全て単線で構わないように思う。そう考えた時に、現在の複線高速鉄道の新幹線の整備が終わった後にも新幹線高速鉄道網から取り残された各都市を救うには、建設費が安価な単線標準軌新線の整備が一番だろう。
フリーゲージトレインが開発中止になった今、各都市を新幹線で直通して結ぶには単線標準軌新線が手っ取り早いし、費用対便益が1を超えやすいので整備しやすい。新八代~宮崎間に単線標準軌新線が整備することで、今後の新幹線高速鉄道網の拡大の手がかりとなれるのではないだろうか。
6. 結び
今回のJR九州ダイヤ改正予測では、肥薩線のまま維持での復旧を目論んでいる。
が、肥薩線の代替として新八代~宮崎間に単線標準軌新線を整備することにより人吉やえびのへのアクセスを確保でき、持続可能な鉄道路線を構築することができる。
また新八代~宮崎間の単線標準軌新線建設は、全国への新幹線高速鉄道網への各地からのフル規格新幹線車両による直通を比較的低コストで実現できることを示す歴史的第一歩となりうるのではないだろうか。
今後肥薩線がどのように復旧・整備するのか、見守ってゆきたい。
コメント