韓国鉄道KORAILでは2020年12月に中央線の新線付け替えを行うとともにダイヤ改正を行うに当たり、2020年9月に新型KTXの車両愛称を公募した。今回はこれについて見ていく。
1. 新線付け替えで高速化へ!
今回の2020年12月実施予定の韓国鉄道KORAILダイヤ改正では、中央線で新線付け替えを行い高速化を図る。
複線電化による新線付け替えは中央線西原州~堤川間で行うほか、堤川~栄州~安東~義城間の新線付け替え及び栄州~安東間の電化も2020年12月までに行うとしている(ただし堤川~栄州~安東~義城間はあくまで単線のみの暫定供用開始で、複線化は2021年8月に行うとしている)。
日本に無理やり置き換えると、大阪から鳥取・米子を経て松江か出雲市まで整備新幹線をつくり当該区間の山陰本線を廃止するようなものである。高速化はありがたいが儲かる気はしない。
この新線付け替えにより旧線は廃止となり、桐華は西原州に実質移設する形で廃止、万鐘は中央線の乗り入れを終了しKTX江陵線単独駅に変更、原州と盤谷は南原州に機能移転する形で廃止、神林と喜方寺にあたる駅は設置しない見込みだ。
なおこの新線付け替えに伴い260km/hまでしか出さない新型KTX車両を6両編成19本投入するとしている。これにより改良しているとはいえ高速線を走らないKTXを運転することになる見込みだ。
ただ幅員が在来線列車やこれまで投入してきた高速線用車両KTX-IやKTX-山川の2,970mmではなく、フランス高速列車TGVと同じ幅広の3,150mmとなっている。日本の新幹線の3,380mmには及ばないが、少なくとも日本の鉄道限界よりは広い。
韓国の在来線では多くの主要幹線が日本統治時代に造られており日本基準の車両限界を用いていたことから原則幅員2,980mmまでの車両しか乗り入れられない。2004年に韓国高速列車KTXを開業させるにあたり車両幅員をフランスTGVの3,150mmではなく2,980mmにしなくてはならなかったのは、開業当初ソウル周辺や大田周辺、東大邱~釜山間において改良していない在来線を運転する必要がありこれ以上幅員を広げられなかったためである。
その後全羅線や慶全線のうち高速列車KTXが走行する区間では大規模な新線付け替えを行ったので新型KTXの幅員でも対応できるようになったが(これにより2014年より投入している特急格電車ITX-セマウルは幅員3,150mmで導入できた)、少なくとも2020年現在においてKTX新型車両はKTX江陵線東海には乗り入れることはできないはずだ。
つまり新型KTXしか乗り入れない見込みのKTX中央線は改良していない在来線への乗り入れは行わないことを意味している。つまりKTX中央線は設定当初は清凉里~安東間のみの運転で、その他の乗り入れは一切行わハに見込みのようだ。
清凉里~安東間で定期列車を江陵線KTX同様18往復の運転であったとしても、清凉里~堤川間の計15往復、清凉里~栄州間の計9往復、清凉里~安東間の計7往復と比べれば運転本数が多くなるのは間違いない。もっとも堤川~栄州~安東間は単線での暫定開業なので、運転本数があまり見込めないし、安東は現在の駅より4kmほど東に離れたバスターミナル付近につくる新駅からの発着となるのでさらに運転本数が減りそうではあるが。
また清凉里~安東間だけで走らせたって19本も使いこなせるはずがない。現に距離が短く運転本数が少ないKTX江陵線が10運用で賄いきれると考えると、中央線清凉里~安東間の高速列車は10運用もあれば足りそうだ。
ただ2022年に中央線・大邱線・東海線の新線付け替えが完了すれば清凉里~新海雲台間で新型KTXを走らせようとしているようだ。なぜ釜山側の終点がホームの多くて市街地に近い東海線の起点である釜田ではなく新海雲台としているかは謎なのだが(旧海雲台であれば釜山交通公社2号線と乗り換えられたので利便性はよかっただろうに)、とにかく2022年12月には清凉里~新海雲台間を260km/hしか出ないKTXで中央線・東海線経由で3時間程度で運転させる計画のようだ。
もっとも3時間での運転はごく少数にとどまり多くは途中駅にも停車し3時間30分程度の運転になりそうだ。さらに定期列車だけでなく臨時列車の運転や、浦項~釜田やかつてのセマウル号のように東大邱~釜田でも運転させようとなればさらに車両が必要となる。そう考えると2022年には中央線KTXだけで新型KTX19本を使い切ってしまう見込みだ。そう考えると韓国内で勝手に騒いでいる他の路線への投入はなさそうだ。
なお同じ車両寸法で320km/h対応の8両固定の新型KTX2021年より投入しようとしている。初代KTX車両のKTX-Iはこの320km/h対応の方で置き換えるのだろう。
2. KTX置き換えで既存在来線列車は軒並み廃止か
では2020年現在で運転している在来線列車たちはどうなるのだろう。
電車特急ITX-セマウルは電化している清凉里~栄州間の運転となっているが、機関車けん引の客車によるセマウル号時代は非電化の安東まで乗り入れていた。そう考えるとKTX中央線は運行当初からソウル・清凉里~安東間の運転にし電車特急ITX-セマウルや清凉里発着のムグンファ号を置き換えるのではないだろうか。
京春線が新線付け替えにより複線化を行った際に全線に渡り首都圏電鉄化したところ、急行格のムグンファ号に代替として設定した特急格のITX-青春の利用が伸びなかった。苦肉の策として首都圏電鉄の急行運転を取りやめたがそれでも利用が伸びず初乗りは3,000ウォンで据え置きながらも15%の運賃割引を終日実施する始末、しまいには首都圏電鉄の急行運転が復活し清凉里にも乗り入れるようになってしまった。
こんなことがあってはせっかく新型車両まで投入した中央線の新線付け替え工事の元手が取れなくなってしまう。そう考えると清凉里発着の中央線ムグンファ号及びITX-セマウルは廃止、いずれにしても西原州~堤川間は在来線一般列車を走らせずKTXのみの運転とするのだろう。
なおKTX在来線料金でもITX-セマウルの20%増し、ムグンファ号の80%増しの運賃にまで値上げする。
ただ清凉里~堤川間ないし栄州間でKTXが走るようになると、所要時間短縮が見込まれることから当然早朝列車の到達時刻の繰り上げ、終列車の始発駅発車時刻繰り下げなどが行える。
また2021年には釜山広域電鉄東海線太和江延伸も控えており、終列車は広域電鉄で賄えるようになってしまう。
そうなるとこれまで終列車の役割を担っていた清凉里21時03分発ムグンファ号1623列車釜田行き及び釜田22時45分発ムグンファ号1624列車清凉里の夜行1往復は廃止になるのだろう。
また今回の中央線新線付け替えに合わせ清凉里~西原州間の一部で最高速度を200km/hから250km/hないし260km/hに引き上げる可能性がある。その際にはKTXの1km当たりの運賃も112.12ウォンから140.20ウォンに値上げし、KTX江陵線でも最大で2,500ウォンの値上げを図る可能性がある。
ただKTXが走るようになっても栄州~安東間では嶺東線直通を中心にムグンファ号が残る見込みだ。
なおこれにより余剰となるムグンファ号客車は廃車か観光列車転用、ITX-セマウル電車は他線転配だろう。特に中央線には旧特室規格車を一般室として営業しているムグンファ号があるが、これから優先して廃車するのだろう。もっともこれらの転配は2~3か月かかるので2021年3月頃までにできていれば御の字だろう。
なおITX-セマウルは予備車として残す可能性があるほか、2021年10月以降に単線電化で開業予定の中部内陸線向けに転用する可能性がありそうだ。
3. 太白線は清凉里乗り入れ廃止でヌリロに統一か
では中央線との直通列車のみしか設定がない太白線はどうなるのだろうか。
太白線は2020年10月現在全列車が中央線直通清凉里発着で運転しているが、中央線高速化後は全ての一般旅客列車において堤川での乗り換えを要すこととなりそうだ。まあ清凉里から太白線の終点東海に行くぶんには>2020年3月2日KORAILダイヤ改正よりKTX江陵線の直通列車を運転するようになったので太白線が線内運転になっても大きく利便性を損なうことはないのだろう。
2020年現在太白線では清凉里~東海間でヌリロ電車4運用とムグンファ号客車1運用で運転しているが、今回のダイヤ改正により運転区間を縮小すると堤川~東海間に短縮すると現在時刻のままの場合ヌリロ4運用のみで運用可能となる。
ただヌリロ電車は全6本しかなく、うち4本を太白線用、2本を嶺東線東海~江陵間用に使ってしまっては予備車がないし、実際現状でも2日間程度清凉里~東海間のヌリロ電車1運用をムグンファ号客車に置き換えて運転していることがある。
また中央線・太白線を運転する観光列車A-trainも変更の可能性がある。2020年8月に旧O-trainとして運用していた車両が新観光列車東海サンタ列車に置き換えソウル乗り入れを廃止し江陵でKTX江陵線と接続する形としたことで、中央線堤川~栄州間を走る観光列車が無くなってしまった。観光列車A-trainも運転区間を清凉里~アウラジ間から堤川~アウラジ間に短縮する可能性がある。
なおムグンファ号4301列車、4303列車、4302列車、4304列車の4往復は忠北線から中央線栄州まで乗り入れているが、中央線区間は列車廃止となり運転区間を東大邱~堤川間に短縮するのだろう。
4. 首都圏電鉄京義・中央線の延長はあるのか
韓国鉄道KORAILでは2020年12月の中央線新線付け替えに伴い中長距離列車をKTXに置き換えようとしている。
ただ当初から龍門~原州間の1日3往復程度しか停車しない各駅への利便をどう図るかが課題となっており、計画当初から龍門発着でムグンファ号を3往復だけ存続させようとするなど様々な計画が持ち上がっている。
もっとも原州市内・堤川市内など京畿道外からの利用であればソウルへの利用はKTXを利用してもらおうとなるのだが、京義道内ではそうは行かない。
三山までは既に新線付け替えを行っており複線電化もしていることから、改札機と券売機さえ設ければ首都圏電鉄の乗り入れは可能だ。しかも石仏以外全て2面4線の高規格駅である。2017年1月21日ダイヤ改正で首都圏電鉄京義・中央線が1日4往復だけながらも砥平まで1駅だけ延伸したことを考えると、そのまま三山まで伸ばす可能性がある。
そもそも首都圏電鉄は大都市圏広域交通管理に関する特別法(大広法)により運転を定めているのだが、前年まで何の前触れもなく2017年1月21日に首都圏電鉄京義・中央線の運転区間が龍門~砥平間の1駅間だけ突然延長した。もっとも1日4往復だけだったので都市鉄道ではないと判断され特例措置が認められた可能性はあるが、これが中央線新線付け替え拡大による高速化を見据えた際に救済措置として首都圏電鉄運転区間を三山まで伸ばす布石だったのかもしれない。というか救済する気がなかったら龍門~三山~西原州間新線付け替え完了時点で途中駅を豪勢な高規格駅として整備することなく廃止にしていたはずである。1号線光明シャトルは高速線を走っているんだ、首都圏電鉄が高速線を走ってもおかしくはない。
一時期ソウル市内の路線図で首都圏電鉄の西原州までの延伸が出ていたことがあるほか、2019年~2020年にかけて赤と青の塗装をした首都圏電鉄用6両編成3両を新製投入している。赤と青のと青の塗装をした首都圏電鉄車両が乗り入れるのは1号線と京義・中央線となるが、1号線は光明シャトルの4両編成を除きどんなに田舎で車内が空いていても10両編成でソウル市内から直通列車で運転しており、2022年に京元線電化区間が伸びても運転系統を終日に渡り分割するとは思えない。そう考えるとこの6両編成3本は4両~8両編成の様々な長さでの運転がある京義・中央線用に使用する可能性が高そうだ。
ただ現在のところ国土交通部からも何も情報が出ていないということは、首都圏電鉄運転区間の延長以外の可能性もある。
そう考えると龍門~三山間で通勤列車CDCでも運転させるのだろうか。まあ現状ムグンファ号で運転していることを考えると、ムングファ号気動車RDCへの置き換えは考えられる。一部の時間帯に限れば太白線ヌリロ電車の運用の間合いを縫って運転できなくはなさそうだが、難しいだろう。
5. 結び
今回の2020年12月実施予定の韓国鉄道KORAILダイヤ改正では、KTX中央線としてソウル・清凉里~安東間でKTXを運転する見込みだ。
ただ清凉里発着のITX-セマウルやムグンファ号が全滅する可能性があるなど、大規模なダイヤ改正と運賃値上げが見込まれる。
今後韓国鉄道KORAILでどのようなダイヤ改正を実施するのか、楽しみにしたい。
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