のぞみを潰して速達型ひかりレールスター運行! 山陽新幹線臨時列車運転(2017年7月~9月夏期間)

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JR西日本は5月19日、プレスリリースにて2017年夏の臨時列車を公表した( https://www.westjr.co.jp/press/article/items/170519_00_hosya1.pdf )。今回はこのうち、山陽新幹線で運行される予定の速達型「ひかりレールスター」について見ていく。

1. 停車駅が速達型の「ひかりレールスター」運行

今回の2017年夏の臨時列車運行では、8月13日、15日、16日の3日間に博多12時19分発、新大阪15時14分着「ひかりレールスター576号」を運行すると公表した。

もっとも、2011年3月12日ダイヤ改正により九州新幹線が博多~新八代間で開業し山陽新幹線と直通運転をするようになったことで「みずほ」「さくら」が運行を開始し、2012年3月17日のダイヤ改正で臨時を含めほぼすべての「ひかりレールスター」がN700系8両編成の「さくら」にとって代わられる前までは、毎時1本程度で「ひかりレールスター」の臨時列車が設定されていた。特に2003年10月1日の「のぞみ」大増発前までは自由席のある「ひかり」に乗客が集中することもあり(当時「のぞみ」は全席指定であった)、2017年3月4日のダイヤ改正で「みずほ」N700系8両を「のぞみ」N700系16両で超繁忙期は潰すようになったのと同様に、700系8両編成の「ひかりレールスター」では輸送力が足りず700系16両編成や500系16編成で繁忙期は代替することもあった。そのような黄金時代も「ひかりレールスター」にはあったが、今では「こだまレールスター」として扱われたり、「ひかりレールスター」であっても通過駅が僅か2駅しかない列車での運行など完全な下火となってしまった。そんな中、2017年の夏に「ひかりレールスター」の臨時列車を運転、しかも停車駅が速達タイプで設定されたのだ。

今回の停車駅が速達型の「ひかりレールスター」は、博多駅を12時19分に出発すると、小倉、広島、岡山、姫路、新神戸と停車し、新大阪に15時14分に到着する。停車駅の数は「のぞみ」全停車駅に姫路のみを加えた形で、東海道新幹線に直通していれば「のぞみ」として運行できるほどの数に絞られており、正に正統派の「ひかりレールスター」と言えるであろう。「ひかりレールスター」(最高285km/h)は最盛期でも新大阪~博多間無待避での運行で概ね2時間40分~2時間46分での運行が多く(最速は2時間35分、最遅は2時間49分であるが停車駅の違いによるものが大きい)、今回の2時間55分での運行は1989年3月11日~1993年3月17日までの最盛期の100N系「グランドひかり」(最高230km/h)の2時間49分運転には及ばないものの、当時の「グランドひかり」は新大阪を出ると岡山、広島、小倉にしか停まらない俊足っぷりだったため停車駅追加の時間や、過密ダイヤ化による待避を考慮すれば多少遅いくらいで速達型の名に恥じない運転をしているのではないだろうか。




2. 「ひかりレールスター」、窮鼠猫を噛む

往年の名列車とも言われる700系8両編成「ひかりレールスター」であるが、最盛期は「のぞみ」に抜かれることなく指定席は2列&2列シートでサイレントシートや4人用普通個室などさまざまなニーズに合わせて運行されていた。しかし先述のようにN700系8両編成「さくら」にとって代わられ、臨時「ひかり」もN700系8両編成で「さくら」の短縮版での運行が主となり、速達型で運行しても列車密度が増えたためにどうしても待避をしなければいけなくなった今、「ひかりレールスター」は東北新幹線「はやて」並みの絶滅危惧種になってしまった。

そこで今回JR西日本はある奇策をとることとした。その奇策とは、「のぞみ」の運行ダイヤを潰して「ひかりレールスター」を運行することである。実は今回運行する僅少「ひかりレールスター576号」の博多発時刻である12時19分は、なんと僅少「のぞみ170号」の博多発時刻と全く同じ。2017年3月4日のダイヤ改正以降、博多発としての運行は4月29日(昭和の日)、7月14日、7月29日の3日しか今のところ運行(予定)のないダイヤパターンに組み込まれた僅少「のぞみ170号」であるが、この700系で運行可能なスジを今回の僅少「ひかりレールスター576号」は博多→新山口間で潰し、博多発での運行を不能にさせたのである。しかも僅少「のぞみ170号」が停車する新山口を、僅少「ひかりレールスター576号」は華麗に通過し、なんと広島到着は「のぞみ170号」より5分速いという大道芸を見せる。その後福山で500系運転の「こだま740号」を抜かすが、今回運転される「ひかりレールスター576号」を通すため臨時「ひかりレールスター」運行日に限り新尾道発時刻を1分繰り上げるという配慮まで見せる。このこうしてひかりレールスターは「のぞみキラー」という新しい顔を手に入れたのだ。その後は広島からは多頻度運行になり僅少「ひかりレールスター」運行の3日間は全て広島始発で運行される「のぞみ170号」に岡山で抜かれ、博多発の定期「のぞみ30号」に姫路で抜かれ、15時14分に新大阪駅20番線に到着し、運行を終える。岡山→新大阪では過密ダイヤにより「のぞみ」2本の待避を受けるが、岡山までは最速達種別であるはずの「のぞみ」より速い時刻で運行し、「のぞみ」のスジを潰すという前例のない事態となっている。形式上上位種別の「のぞみ」を「ひかりレールスター」が潰したのだから下剋上だとも言えるが、かつては「のぞみ」より人気があったことを考えると、正に窮鼠猫を噛む(外部リンク参照)とはこのことであろう。




「のぞみ」を潰す「ひかり」と言えば主に日曜運転の東海道新幹線「ひかり535号」(東京20時33分発、新大阪23時29分着)を思いつく方もいるかもしれないが、この列車のもとをたどると1989年3月11日のダイヤ改正から多頻度運行(日曜日とたまに金曜運転)の「ひかり173号」(東京20時12分発、名古屋22時23分着)に遡ることができ、その後紆余曲折を経て2005年3月1日のダイヤ改正より多頻度「のぞみ」が「ひかり」の運休日に新大阪着時間を潰す形で設定され、今ではすっかり「のぞみ」に浸食されつつあるが、こちらは先住民の「ひかり」をその後に設定された「のぞみ」に潰される形となっているものと考えられ、今回のような「のぞみ」僅少スジを「ひかり」、しかも「ひかり」の中でも「ひかりレールスター」が潰すのは過去の時刻表15冊を調べても見当たらず、後述のこの列車の成り立ちから考えても今回が初めてであるものと思われる。

とはいえ、最速達種別の「のぞみ」より速く運行する理由にはいくつかある。確かにこの「のぞみ170号」は僅少ゆえ、700系でも運行可能なダイヤとなっている。そのため新大阪まで「のぞみ」と同じ停車駅・運行時刻で組めたはずだ。それなのになぜ「ひかりレールスター」を「のぞみ」より岡山まで速く運行させたのだろう。それには、山陽新幹線の需要が東高西低であることが一因ではないだろうか。データで見るJR西日本によれば、山陽新幹線広島~博多間の輸送密度は新大阪~岡山間の半分ほどしかなく、博多口は超繁忙期でもない限りもっぱら空気輸送が目立つ。「のぞみ」も新大阪~広島間は多頻度でも毎時5本設定されるが、広島~博多間では超繁忙期にならない限り毎時4本運転にはならない。そのため「のぞみ」のスジを潰そうにも、広島~新大阪までも潰してしまったら輸送力が16両から8両に減ってしまい、輸送力不足が懸念される。そうなれば「のぞみ」より遅い設定で新山口も停車させて良かったと思うかもしれないが、あえて「のぞみ」より先行して運行し、岡山であえて抜かさせることにより、博多や小倉から名古屋・東京方面に向かう旅客が広島または岡山で乗り換えさせることで「のぞみ170号」と同等の所要時間で到達できるようにしている。そのため「ひかりレールスター」を新山口通過とすることによりあえて「のぞみ」より速い設定にしたのではないだろうか。




3. 速達型「ひかりレールスター」運行は苦肉の策なのか

今回、久々に700系8両編成を用いた速達型「ひかりレールスター」の運行にこじつけたわけだが、この新大阪15時14分着のスジはなかなかの曲者で、もとは博多~新大阪間のウエスト「こだま」用であったのだが、減便により毎時14分着のウエスト「こだま」は11時台と16時以降のみとなってしまった。JR西日本もこの枠の活用法についてかなり模索しているようで、2017年に入ってからだけでも3回全く別のダイヤで運行している。この節では、2017年以降の山陽新幹線新大阪15時14分着列車の変遷について見ていく。

まず2017年で初めに設定されたのは1月3日・4日。JTB時刻表2016年12月号によれば、博多11時25分発として「ひかり596号」を設定した。1月3日はは700系16両編成で運行したものの、翌4日は700系8両編成「ひかりレールスター」で運行されている。停車駅は小倉、新山口、徳山、広島、三原、福山、岡山から新大阪までの各駅と多くの駅に停車しており、通過駅は僅か6駅しかない設定となった。所要時間も3時間49分となっており、2012年3月以降の遅い「ひかりレールスター」の設定となった。

次に設定されたのはダイヤ改正後の5月7日。JTB時刻表2017年3月号によれば、博多発10時41分発として「こだま776号」を設定している。使用車両は700系8両編成で、「ひかりレールスター」と同型の車両である。停車駅は全駅で、1月3日・4日に設定した臨時「ひかり596号」の需要が振るわなかったため停車駅を増やし、当該列車に時刻をウェブのプレスリリースにも記すことで利用者数を伸ばそうとしたのであろう。とはいえ所要時間も4時間27分に延び、他のウエスト「こだま」が5時間以上かけて運行するのに比べればまだ速いのであろうが、18分~24分後続の「こだま740号」の需要を奪うだけにとどまり、こちらも需要が伸びなかったのだろう。

そしてJR西日本は気付いた。元ウエスト「こだま」用スジであったとはいえ、「のぞみ」がひっきりなしに走り選択停車をし、「さくら」が選択停車駅間の輸送を補完する中、もはやウエスト「こだま」や停車駅の多い「ひかりレールスター」では多客期輸送の緩和にはつなげられないと。その窮地に立たされた時に導き出された発想の転換こそが今回の夏の臨時列車のお知らせで運行が決定された速達型「ひかりレールスター」の運行に繋がったのではないだろうか。


4. 結び

今回の2017年夏の臨時列車運転では、久々に速達型「ひかりレールスター」の運行を設定した。そして500系「こだま」の協力も得て「のぞみ」のスジを潰して「のぞみ」より途中まで速く運行する「のぞみキラー」という奇策に打って出た。しかしその設定の裏には様々な背景があり、JR西日本の試行錯誤が垣間見える。今後どのような列車を運行していくのか、そして今冬にもこの「のぞみ」を潰す「ひかりレールスター」が現れるのか、注目したいところだ。

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