JR東海は2019年1月25日、プレスリリースにて2020年7月よりN700S量産車の営業運転を開始すると公表した( 次期新幹線車両「N700S」量産車の仕様および投入計画について )。今回はこれについて見ていく。
1. N700S営業運転開始で最高速度引き上げへ
今回の2020年7月実施予定の東海道新幹線ダイヤ改正では、N700Sが営業運転を開始する。
N700Sが空気力学的に300km/h運転できることは山陽新幹線のN700系による300km/h運転で既に証明されているが、列車密度の高い東海道新幹線内では前後の列車の間隔が狭いことから、他の新幹線では4km以内に停車できれば良いものを3km以内に停車できるような車両設計としている。このことからブレーキ性能の制約で東海道新幹線内ではN700系では270km/h運転、ブレーキ力が15%改善したN700A(2次車相当)では285km/h運転となっている。
ただN700A(2次車相当)とN700Sではブレーキ力が14%改善する見込みだ。そうなるとブレーキの性能上N700Sは理論値上東海道新幹線で300km/h運転が可能となっている。
また米原~京都間のうち滋賀県内のトンネルのない区間では360km/hによる試運転を実施していることから、330km/hによる運転を実施する可能性まである。一部区間とはいえ国内最高速度を東北新幹線から奪い取り、かつ世界でも中国鉄路京滬高速線及び京津城際線の350km/h運転に次ぐ330km/h運転を行う見込みだ。
JR東海は2019年現在最高速度引き上げの予定はないとしているが、2019年12月のダイヤ改正プレスリリース公表以降に最高速度引き上げを公表する可能性が極めて高い。そもそも東海道新幹線の300km/h運転及び滋賀県内の330km/h運転は以前新聞各社のインタビューで宣言していることであるし、N700A改造及び新造車でN700系に比べブレーキ性能向上したのは地震などで緊急停車しなければならない際に制動距離を短縮するためとしていたが、実際には2015年3月14日ダイヤ改正で最高速度が引き上げている。この最高速度引き上げを予想できた人はいただろうか?
そもそもN700SがN700Aと同性能でしか運転しないのであれば、別に法定耐用年数13年ギリギリしか使わないで廃車にするようなことはせず、N700Sの導入をせずともN700系を15年も17年も使えばいい話だ。事実300系新幹線はN700系の導入がやや遅れたために、代替車両が製造される2007年まで15年間使用した編成がいくつも存在する。つまり、N700系が導入された2007年から13年後の2020年にN700Sが導入されるのであれば、N700S導入による最高速度引き上げがないはずがなのだ。
そう考えると、東海道新幹線が300km/h運転を行う可能性は極めて高いほか、滋賀県内で330km/h運転を行う可能性もある。世間からの評価は200系新幹線による1990年当時の国内最高速度となる上越新幹線「あさひ」の275km/h運転並みに冷ややかであろうが、営業運転最高速度としては確かに東北新幹線「はやぶさ」の320km/h運転を上回る国内最高速度かつ中国鉄路高速CRHの350km/hに次ぐ単独世界二位となりそうだ。
2. N700S導入後のダイヤはどうなる
では2020年7月実施予定の東海道新幹線では、どのようなダイヤ改正を実施するのだろうか。
そもそもJR東海では東海道新幹線では発足以来1年で2度ダイヤ改正を行ったことはなく(但し同年度では2007年7月1一ダイヤ改正と2008年3月15日の白紙ダイヤ改正を行ったことはある)、2007年7月1日ダイヤ改正もN700系の導入が遅れたため本来2007年3月17日に高山本線など在来線と同時にダイヤ改正を行いたかったものを遅らせたに過ぎない(そのため2020年7月1日ダイヤ改正のプレスリリースは2016円12月に公表されている。ここまで早いプレスリリースの公表は旧国鉄各社で最も早い)。また国鉄分割民営化後山陽新幹線内で1年に複数回ダイヤ改正を行ったことがあるが、東京発着の山陽新幹線直通列車が山陽新幹線内で所要時間短縮を図っているが、東海道新幹線内では所要時間短縮を図っていない。
そもそもN700Sの導入により所要時間はどのように変化するのだろうか。
2007年より導入開始し2007年7月1日ダイヤ改正より運転を開始したN700系は、700系や500系と同じ270km/h運転ながらも、デジタルATC導入や車体傾斜装置の導入により東京~新大阪間の最速所要時間をこれまでの2時間30分から2時間25分に5分短縮した。また2015年3月14日ダイヤ改正では270km/hから285km/hに最高速度を引き上げたことにより、さらに3分短縮し東京~新大阪間最速2時間22分運転となった。
今回のダイヤ改正でもし300km/h運転を実施すると全線で2分短縮し2時間20分運転、東海道新幹線のほぼ全線で300km/h運転を行い、滋賀県内のみ330km/h運転を行う場合、東京~新大阪間の最速所要時間は2019年現在の2時間22分から3分短縮し2時間19分運転になる見込みだ。330km/h運転を行うと2時間19分運転を行えることから、300km/h運転のみならず330km/h運転を行うと考えられるのは気のせいだろうか?
N700Sは投入初年度の2020年度が12編成、2021年度と2022年度がそれぞれ14編成の投入となっている。N700系の毎年16編成より少なくなっているものの、N700系導入初年の2007年同様全ての編成の製造が7月1日ダイヤ改正までに追いつくはずがない。実際N700系が営業運転を開始した2007年7月1日ダイヤ改正ではN700系は5編成3運用しかない。昼間のパターンダイヤ時間帯毎時1本の東京~博多間「のぞみ」に必要な編成数は予備車を含めて15~16編成、東京~新大阪間の「のぞみ」でも7~8編成必要であることを考えると、到底毎時1本置き換えるには足りないことがわかる。
またN700系を導入した2007年7月1日ダイヤ改正では、初終列車のみ所要時間短縮を実施した。
そう考えると、N700Sが営業運転を開始する2020年7月ダイヤ改正は、初終列車など早朝・深夜のみの時刻変更に留まるのではないだろうか。
2.1. 早朝「ひかり」のN700S導入は見送りか
では早朝ではそのようなダイヤ改正を実施するのだろうか。
またこのダイヤ改正時に品川6時00分発「のぞみ99号」博多行きが登場している。N700系運転開始時には設定がなかった新横浜6時00分発「ひかり493号」広島行きの設定がなかったことから5編成3運用で賄えたが、N700S運転開始にあたり「ひかり493号」の最高速度引き上げがなければ後続の「のぞみ99号」の所要時間短縮は図れない。つまりすべての東京~新大阪間初終列車「のぞみ」の所要時間短縮を図ろうとすると、4運用が必要になるのだ。
しかもせっかく導入する次世代の東海道新幹線を担う新型車両を、最速達ではない「ひかり」に運用されるのはいかがなものだろうか。もしN700Sを新横浜6時00分発「ひかり493号」に導入すると、関東から関西に向かう最初のN700Sが「のぞみ」ではなく「ひかり」となってしまう。そう考えると、新横浜6時00分発「ひかり493号」のN700S化は2021年3月ダイヤ改正に持ち越しとなりそうだ。
また、2020年7月ダイヤ改正で後続の品川6時00分発「のぞみ99号」にN700Sが導入されたとしても所要時間を短縮するのはせいぜい1分だろう。
なお東京6時00分発「のぞみ1号」博多行きは前の品川6時00分発「のぞみ99号」と6~7分間隔が開いており、全ての駅で「のぞみ99号」と同じ列車を抜かすことから、東京→新大阪間で3分短縮し新大阪8時22分着から8時19分着に繰り上げられる見込みだ。
また上りの初列車である新大阪6時00分発「のぞみ200号」東京行きは全運転区間で3分短縮し東京8時23分着から8時20分着に繰り上げられる見込みだ。2019年3月16日ダイヤ改正時点で東京8時20分着には静岡始発の「こだま704号」がいるが、おとなしく小田原で「のぞみ200号」に抜かれてもらい東京8時23分着に繰り下がってもらおう。
2.2. 深夜はどうなる
では2020年7月ダイヤ改正で終列車はどうなるのだろうか。
終列車に関しては予測に幅がある。2019年3月16日ダイヤ改正現在の終列車は東京21時23分発「のぞみ265号」新大阪行き及び博多18時59分発「のぞみ64号」東京行きとなっている。ともに東京~新大阪間で2時間22分運転を行っているが、この両列車も2020年7月ダイヤ改正で2時間19分運転に所要時間を短縮する可能性が高い。
ただここで気になる点が一つ。純粋に始発駅を3分繰り下げて出発するだけなのか、それとも終点着時刻も繰り上げるのか。
国鉄分割民営化時=JR東海発足時からの東海道新幹線の終電について見ていくと、
- 1986年11月1日~1988年3月12日 東京21時00分発新大阪23時52分着
- 1988年3月13日~1992年3月13日 東京21時00分発新大阪23時49分着(新大阪着3分繰り上げ)
- 1992年3月14日~2007年6月30日 東京21時18分発新大阪23時48分着(東京発18分繰り下げ、新大阪着1分繰り上げ)
- 2007年7月1日~2015年3月13日 東京21時20分発新大阪23時45分着(東京発2分繰り下げ、新大阪着3分繰り上げ)
- 2015年3月14日~2020年6月 東京21時23分発新大阪23時45分着(東京発3分繰り下げ)
となっている。なお上り(東京方面)の終電は上記の東京と新大阪を入れ替えたのみとなっている(但し2007年7月1日より新大阪始発から博多始発に延長したという違いはある)。
このように見ていくと、必ずしも東海道新幹線の終列車は時刻を繰り下げたのみではなく、時刻を繰り上げたこともある。これは時刻の繰り上げで駅の営業時間を短縮させ費用縮減を図るためであるが、今回のN700Sの運転開始により所要時間が短縮された場合も駅の営業時間短縮目的で到着駅の終電繰り上げを行う可能性がある。
そこで2020年7月以降に考えられる終列車は以下の3つ。
- 東京21時23分発新大阪23時42分着(新大阪着3分繰り上げ)
- 東京21時25分発新大阪23時44分着(東京発2分繰り下げ、新大阪着1分繰り上げ)
- 東京21時26分発新大阪23時45分着(東京発3分繰り下げ)
なお東京21時30分発を新大阪行き最終とするには、現在東京21時30分発「ひかり537号」名古屋行きの東京出発時刻を繰り下げなければならない。ただこの「ひかり537号」は300系時代から運転時刻が変わっていないので3分くらい所要時間を短縮するのはいともたやすい。でもやるならN700系に統一される2020年3月の白紙ダイヤ改正でやるべきであって、2020年3月ダイヤ化改正でも東京21時23分発を新大阪行き最終とするのであれば、2020年7月ダイヤ改正で東京21時30分発の最終新大阪行きとなる見込みは低そうだ。
(追記)2019年10月11日に台風19号接近に伴う救済臨時列車を運転した際、急遽史上初の東京21時26分発「のぞみ」新大阪行きと新大阪21時26分発「のぞみ」東京行きを増発しました。このことから既に将来的に東京及び新大阪21時26分発の「のぞみ」を設定する枠は確保できているものと考えられ、N700S導入により所要時間が短縮した暁には終電の発車時刻3分繰り下げが濃厚となりました。
3. 結び
今回の2020年7月実施予定の東海道新幹線ダイヤ改正では、N700S導入により最高速度の300km/h以上への引き上げが見込まれ、初終列車を中心に所要時間短縮が見込まれる。
ただ、2020年3月ダイヤ改正が白紙改正が見込まれるだけに、2020年7月ダイヤ改正は昼間の列車については運用変更こそあるだろうが所要時間の短縮はこのダイヤ改正では見込めない。
今後N700Sの増備により東海道新幹線でどのようなダイヤ改正を実施するのか、見守ってゆきたい。
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