JR東海は2019年1月25日、プレスリリースにて2020年7月よりN700S量産車の営業運転を開始すると公表した( 次期新幹線車両「N700S」量産車の仕様および投入計画について )。今回はこれについて見ていく。
1. N700S毎時1本運転開始へ
今回の2021年3月山陽新幹線ダイヤ改正では、N700Sの増備に伴い定期「のぞみ」のうち毎時1本がN700Sによる運転となる見込みだ。
JR東海では2020年度にN700Sを14本導入することが内定しているほか、JR東海が新型車両を入れた1年以内にJR西日本も新型車両を8本~9本導入し、1年以内のダイヤ改正で毎時1本の東京~博多間運転定期「のぞみ」が新型車両専用運用となり所要時間短縮を図るのが恒例となっている。
つまり2020年7月予定の山陽新幹線ダイヤ改正でN700Sの導入が決定していることを考えると、2021年3月ダイヤ改正での定期「のぞみ」毎時1本のN700S新幹線専用運用化と少なくとも東海道新幹線内での所要時間短縮は図られ、東京~新大阪間で3分の所要時間短縮を図りその分山陽新幹線内でも時刻変更を行うものと思われる。
ただ、以前の記事でも述べたように、N700Sの導入により山陽新幹線内で最高速度を引き上げるかどうかは微妙なところだ。
2. N700Sの導入により臨時列車の増発はあるのか
ではN700Sの導入により山陽新幹線で臨時列車の増発はあるのだろうか。
これまでの「のぞみ」の運転本数を見ていくと、たいてい臨時列車を含めた東海道新幹線の運転枠のうち半分が山陽新幹線に直通している。これは2019年現在でも当てはまり、臨時列車も含め東海道新幹線では「のぞみ」を毎時10本、山陽新幹線では「のぞみ」を毎時5本が運転している。
とはいえ、山陽新幹線も博多まで毎時6本の「のぞみ」が必要というわけではなく、広島までで構わない。そう考えると、新大阪〜広島間で「のぞみ」を毎時1本増やすには、16両編成を4本追加で投入すれば間に合いそうだ。
そう考えると、2020年7月ダイヤ改正でJR東海がN700Sを5本くらい導入してN700系の廃車を少し伸ばせば新大阪〜広島間の「のぞみ」を毎時1本増発することができ東京オリンピックにギリギリ間に合うのだが、JR西日本が新幹線の増発にそこまで積極的でないこと(そもそも東京はJR西日本の管轄エリア外なので、印象が薄い)そこまで至れり尽くせりなことをJR東海が行えるかは微妙だ(できたら相当すごいことなのだが)。
また、4本の運用増加であれば2021年3月ダイヤ改正までにJR西日本でもN700Sを8本は増備するはずなので、2007年度に導入したN700系8本を全てを「のぞみ」から引退させるのではなくまだ14年しか経過していない2007年製造分のN700系のうち一部の廃車を遅らせたっていい。500系新幹線を22年間使っているJR西日本なのだ、13年でスクラップなんてもったいない(2006年に導入した700系16両編成が2020年初めに廃車なので涙目)。
では「のぞみ」運用を引退したN700系はどうなるのだろうか。700系16両編成のように製造年代が古い車両があるにもかかわらず廃車する可能性はあるが、16両から8両に短縮し、「こだま」運用に転属させる可能性もある。現在山陽新幹線「こだま」は1997年より導入した500系新幹線や2000年に多く導入した700系8両編成(「ひかりレールスター」型車両)で運転しており、日本で営業運転する新幹線の中で最も古い部類に入る車両を使用している。JR東海は減価償却期間の13年で新幹線車両を置き換えるため交換周期が短いが、JR東日本でも200系新幹線が23年間使ったほかはE1系、E2系、E4系ともに18〜19年程度で廃車にしている。つまり今山陽新幹線「こだま」を走る500系新幹線や700系8両編成はいつ車両交換して廃車になってもおかしくないのである。
ではなぜ700系16両編成は廃車しているのにN700系は16両から8両に短縮すると考えているのかと言うと、700系の廃車後すぐにN700系が「のぞみ」から少しずつ撤退することでほんの数年待てば5年新しい車両が手に入ること、N700系であれば今後10年は多くの16両編成が運用し続けるほか、8両編成(「みずほ」「さくら」型車両)も当分の間運転し続けることからメンテナンスがしやすいのである。過去に100N系(「グランドひかり」型車両)や500系を短縮して「こだま」に転用してきたことを考えると、N700系も8両編成に短縮して「こだま」に転用させる可能性はある。
しかも2019年10月より500系「こだま」のうち1運用が700系8両編成に置き換えられている。全般検査のため一時的に置き換えている可能性もあるが、全般検査の場合、残り3年の検査期限(つまり2022年ごろ)をもって廃車となる可能性もある。
そう考えると、2021年までに起こりうるのは2つ。1つは山陽新幹線臨時「のぞみ」の増発によりN700系の廃車が抑えられ、500系「こだま」が存続する可能性。もう1つは山陽新幹線内臨時「のぞみ」の増発はなく、500系「こだま」が廃止となる可能性。
2019年12月第3金曜日に公表する可能性がある(N700系導入に伴う2007年7月1日ダイヤ改正公表は前年12月第3金曜日であった)2020年7月ダイヤ改正にて、少なくとも一部時間帯での臨時列車を含む山陽新幹線「のぞみ」の毎時6本化があれば500系新幹線が延命する可能性があるが、延命したとしても1年であろう。
2017年にN700系において台車亀裂の重大インシデントを起こしたことから、再発防止の意味も合わせて策定された新幹線の安全性向上の取り組みについてでは、500系台車の動作音で検出と書いてあるが、要は職員の耳で聞けという気合いと根性理論でしかない。つまり抜本的な対策なんてしないというのに等しい。
では抜本的な対策をしないのであればどうするのか。そんな安全対策の取られていない車両なんてもうすぐ廃車にするから費用対効果を考えてしないということだろう。つまり、台車異常検知装置の設置の500系の完了予定時期の2021年度は500系新幹線の墓場を意味する。
そう考えると、500系新幹線の引退は間近に迫っており、もっても2022年までだろう。N700Sの投入によりN700系の「こだま」転用改造が進み2021年3月ダイヤ改正には間に合わないとしても2022年3月ダイヤ改正にはまず間違いなく運用をなくすだろう。2019年12月のダイヤ改正プレスリリース公表で分かるのはあくまで500系新幹線の寿命ががあと1年延びるか延びないかだけであり、いずれにせよ3年以内に展示用を除き全廃車する可能性が極めて高そうだ(もっとも引退したら京都鉄道博物館に展示されそうではあるが)。
またN700SはJR九州が2022年9月23日予定の九州新幹線長崎ルートの開業に際し導入に前向きであり、800系新幹線が製造後19年経つことから置き換え用として鹿児島ルートにも導入する可能性はあるが、JR西日本では2020年製造分までは実質N700系とN700Sの16両編成で製造予定が埋まっておりこれ以上の新幹線用車両の製造にかけられる費用に余裕がないこと、その後も北陸新幹線W7系の製造を2023年3月までに行わなければならないことから、実現可能性が薄い。また2021年にN700Sの8両編成を導入してJR九州に直通しても、少なくとも2年間はJR九州の所有しない車両で片乗り入れさせることになる。そう考えると、2023年3月の九州新幹線長崎ルート開業前後にJR九州とJR西日本が揃って「みずほ」「さくら」用にN700S8両編成を投入しN700系8両編成の一部を「こだま」「つばめ」用に転用する可能性があるが、少なくとも500系を置き換えるには時期が遅く、700系8両編成の置き換えを行うことになりそうだ。
ちなみに700系8両編成は、2022年度を目途に空気ばねの圧力で台車異常を検知するとしている。700系については不透明で、ほぼすべての編成が2000年に落成していること、16本あり1年間での置き換えは難しいこと、先述したように山陽新幹線の車両を置き換える財政的余裕はあまりないことから、700系8両編成は2023年までは残り、2023年3月ダイヤ改正以降のN700S8両編成導入により置き換えが進んでいくのではないだろうか。
3. 結び
今回の2021年3月山陽新幹線ダイヤ改正では、臨時「のぞみ」の増発が図られる可能性がある一方、増発が図られない場合500系新幹線が引退する可能性が高い。
今後山陽新幹線でどのようなダイヤ改正を実施するのか、見守ってゆきたい。
コメント
もうすでに京都鉄道博物館に500系W1編成がいるので500系が京都鉄道博物館に収容されることはもうないかと。