韓国鉄道経済新聞は2023年4月4日、新聞記事にて9月に高速列車SRT乗り入れ区間拡大に伴うダイヤ改正を行うと公表した( 「SRT、昌原・麗水・浦項からも乗れる」…9月から )。今回はこれについて見ていく。
1. 高速列車SRTの運転区間拡大へ!
今回の2023年9月SRダイヤ改正では、SRの運転する唯一の列車であり高速列車であるSRTの運転区間を拡大する。
高速列車SRTは私鉄(と言っても発行株式の40%を旧国鉄の韓国鉄道KORAILが保有)のSRが運転する高速列車である。大半の区間は韓国鉄道KORAILの保有する線路を走行するが、競合のために運賃を安くしており一般室は高速列車KTXの約10%引きで利用できる。また高速列車KTX(特にKTX京釜線)は大半が座席転換不可の初期型車KTX-Iのため後ろ向きで走行する座席もあるが、高速列車SRTはきちんと進行方向に座席が向いてくれるので快適性も高い。
ただ、高速列車KTXは韓国国内津々浦々を運行する一方で、2016年12月9日の水西高速線開業に伴い運転を開始した高速列車SRTは開業当初から一貫して水西~釜山・木浦間の運転のみの運転で原則高速線しか運転してこなかった。このためKTX乗り入れ在来線各線では高速列車SRTの割安な運賃を受けられなかった。
ただ今回の2023年9月ダイヤ改正では、水西発着の高速列車SRTを東海線浦項、慶全線晋州、全羅線麗水エキスポまで各1日2往復ずつ乗り入れるようにする。
これによりソウルから南方向へ向かう高速列車KTXの走行区間のほとんどで割安な高速列車SRTが運転を開始する。
まあ韓国あるあるで3か月遅れはザラなので2022年12月までダイヤ改正が遅れるかもしれないが、このSRT乗り入れ枠確保に伴い、線路を共有する韓国鉄道KORAIL各列車もダイヤ改正をするだろう。
2. 釜山発着SRTを削減見込みへ
今回の2023年9月SRダイヤ改正では、各2往復のSRT新規系統運行開始に伴い釜山発着SRTを減便する見込みだ。
SRT用の車両は8両編成32本の用意があり、2023年4月現在SRT京釜線は1日40往復、SRT湖南線は1日20往復の運転がある。SRT湖南線は全日全列車8両での運転だが、SRT京釜線は曜日によって16両運転の列車を5~15往復運行している。一番16両運転が少ない月曜~木曜は8両編成32本中22本のみを運用し、残り10本は予備車や点検に回している。
今回のダイヤ改正に伴うSRT列車の増備は行わないため、今回の東海線浦項、慶全線晋州、全羅線麗水エキスポまで各1日2往復ずつ運転するにあたり、運用確保のため水西~釜山間運転の高速列車SRT京釜線40往復のうち月曜~木曜は5往復を減便し35往復の運転とする見込みだ。
なお金曜・土曜・日曜は水西~釜山間運転の高速列車SRT京釜線を40往復のまま維持しSRT車両32本中32本すべてを運用に回すとしているが、いやいや予備車0で回すのはさすがに危険だろう。そう考えると、おそらく金曜は10往復、土曜日曜は15往復行っている16両運転の一部を8両に減車するのだろう。
もっともこれで一部の曜日で水西~釜山間運転の高速列車SRT京釜線は減便するのだが、水西~大田~東大邱間は今回運転を開始する東海線浦項および慶全線晋州発着の高速列車SRT2往復ずつが乗り入れるため、水西~大田~東大邱間では月曜~木曜は40往復から39往復にしか減便しないし金甌土曜日曜は40往復から44往復に増発する。このため高速列車SRT京釜線の減便の影響はあまりないと言っていいだろう。
なおSRT湖南線は毎日20往復、全列車8両運転のまま変わらない見込みだ。このため水西~益山間ではSRT全羅線の2往復設定により20往復から22往復に増発する。
3. SRT拡大の真の目的はいかに!
ではなぜ開業後約7年が経つ2023年9月に高速列車SRTの乗り入れ区間を大きく拡大することになったのか。
先述したように高速列車SRTの運転区間拡大によって新規乗り入れ開始区間では1割引き相当で高速列車を利用できるわけだが、だったら2016年12月9日の水西高速線開業の際に行ってもよかったではないか。
今回高速列車SRTが運転を買いすする区間にはたいてい在来線特急格電車ITX-セマウルを運行している。浦項にはもうITX-セマウルが乗り入れていないが、全羅線麗水エキスポや慶全線晋州にの乗り入れる在来線特急格電車ITX-セマウルはそれぞれ1日2往復で、今回設定する高速列車SRTの運転本数と合致するのである。
また運賃を見てみると、在来線特急格電車ITX-セマウルは1kmあたり96.36ウォンなのに対し、高速列車KTXの在来線区間は1kmあたり112.12kmとなっている。一方で高速列車SRTの在来線区間は基本運賃が1kmあたり100.91ウォンと特急格電車ITX-セマウルと近いほか、高速列車SRTに限り停車駅が1つ増えるごとに0.2%割引があること、平日はネット予約で1%割引があることなどから、それらを活用するとほぼITX-セマウルの運賃と変わりない。
もっとも全羅線SRTは益山から湖南高速線に入るだろうから、全羅線から大田広域市の湖南線の駅西大田へは在来線を経由するしかない。このため全羅線からの西大田方面直通列車は在来線特急格電車ITX-セマウル2往復のほかにも高速列車KTX3往復、在来線急行格列車ムグンファ号も西大田経由龍山発着のムグンファ号が5往復ある。もっともムグンファ号は年々線内折り返しの益山発着便が増えているので在来線列車の系統分割を目指している感は否めないが、大田広域市への直通利用があることから全列車を系統分割することはないだろう。
ただ全羅線は営業最高速度200km/h(一応230km/h対応だが費用対効果が低いので200km/h運転までしかしていない)のに対しITX-セマウルは150km/hまでしか出さない。そう考えると全羅線直通高速列車SRTを運転開始すると在来線特急列車ITX-セマウルとほぼ同一運賃にも関わらず所要時間が短くなる。これは効果が大きいだろう。
一方慶全線は2021年8月1日韓国鉄道KORAILダイヤ改正をもって急行格列車ムグンファ号の大田・ソウル乗り入れを廃止、東大邱までしか乗り入れなくなった。これにより大田・ソウルへの直通列車は高速列車KTX14往復と在来線ITX-セマウル2往復のみとなっている。
このうちITX-セマウル2往復を高速列車SRT2往復に置き換えれば、慶全線から大田・ソウルへの直通列車をすべて高速列車とすることができるほか、東大邱までの利用もこれまでのITX-セマウルと運賃が大差ない。
つまり慶全線SRTの運転開始は在来線特急列車ITX-セマウルの置き換えをもくろんでいるのではないだろうか。
ちなみに高速列車SRTは2027年の平沢分岐点~五松間の複々線化に伴い8両編成14本を追加投入するとしている。が、そもそも複々線化を図るほどの線路容量じゃないしそんなことするくらいなら天安牙山~公州間に複線を新設して湖南高速線の高速化と公州市街地に近いところに駅を建設して利便性を上げた方がいいと思うのだが。
なおこの際に投入する8両編成14本は動力分散式のEMU-320となるため、高速線での最高速度引き上げによる所要時間短縮を図れる一方、既存の動力集中型SRTと併結ができない。このため運用が分離する見込みだ。
4. 結び
今回の2023年9月韓国鉄道KORAIL・SRダイヤ改正では、高速列車SRTの乗り入れ区間を大幅に拡大する一方で、在来線特急格電車ITX-セマウルの縮小を図る可能性がある。
今後韓国鉄道KORAILやSRでどのようなダイヤ改正を行うのか、見守ってゆきたい。
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