IGRいわて銀河鉄道は2022年6月16日、プレスリリースにて7月~9月に臨時快速列車を増発すると公表した( 開業20周年記念共同企画について )。また青い森鉄道は2022年6月16日、プレスリリースにて7月~8月に臨時特別快速列車および臨時快速列車を増発すると公表した( あおもりの夏祭りは青い森鉄道で! )。今回はこれらについて見ていく。
1. 盛岡~青森間の臨時快速運転へ!
今回の2022年7月以降のIGRいわて銀河鉄道および青い森鉄道臨時列車運転では、盛岡~青森間で臨時快速列車を運転する。
運転するのは1日あたり1往復で、青森8時25分発快速盛岡行きおよび盛岡17時55分発快速青森行きとなっている。使用車両は青い森701系で、セミクロスシート設定の車両で運転する。
運転日は7月16日~7月18日の海の日三連休、9月17日~9月19日の敬老の日三連休、9月23日~9月25日の秋分の日三連休となっている。
従来であれば盛岡~青森間を通しで運転する定期列車はないため、八戸での乗り換えが要らないという点ではメリットはあるだろう。一応盛岡~青森間は高速バスも運行しているが、1日2往復しかないため棲み分けは成されているだろう。
今回運転する臨時快速列車の停車駅は、盛岡近郊や青森近郊を除けば2002年12月1日にIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道に移管する前のJR東日本東北本線を走行していた特急「はつかり」並みに絞っている。
ただE751系特急「スーパーはつかり」が盛岡~青森間最速2時間05分、485系特急「はつかり」が約2時間15分で結んでいたことを考えると、今回の臨時快速の所要時間であるは青森発盛岡行きが2時間57分、盛岡発青森行きが2時間49分は長い。これは特急「スーパーはつかり」は130km/h運転を行うのに対し、昼行特急を取りやめたIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道では110km/hまでしか出さなくしたのが影響しているのだろう。
なお今回設定する盛岡~青森間運転の臨時快速列車は全車自由席で、普通運賃のみで利用できる。
2. 盛岡~青森間でお得なきっぷをJRリバイバル価格で設定へ!
ただ今回設定する臨時列車は料金不要とは言え、盛岡~青森間利用の場合運賃だけでもIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道の合計片道5,590円がっかってしまう。これでは1時間程度で到達できてしまうJR東日本東北新幹線「はやぶさ」の特定特急券利用の5,720円と大差がない。
そこでIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道では、東北本線からの移管および開業20周年としてお得なきっぷを発売することとしたのである。
まず1つが盛岡→青森間の青森割引きっぷおよび青森→盛岡間の盛岡割引きっぷ。ともに片道利用だが、途中下車、つまり同一乗車券再入場が可能で価格はともに3,500円と普通運賃の37.3%引きと破格の安値となっている。
これは2002年12月1日にIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道に移管する前の東北本線が盛岡~青森間の普通運賃が3,570円(消費税5%当時)だったことから、それに近い端数を切り捨てた3,500円としたのだろう。そう考えると青森割引きっぷおよび盛岡割引きっぷはJR東日本営業時のリバイバル価格での設定と言って過言ではないだろう。
また今回の開業20周年企画では、IGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道が2日間乗り降り自由のもりもりフリーパスを5,500円で発売する。
このお得なきっぷはともに利用期間が2022年7月16日~10月31日利用開始分となっている。この期間の全日にて利用開始可能であることから夏休みの平日も利用可能で、土休日のみ発売の3,000円のIGRいわて銀河鉄道ホリデーパスや2,100円の青い森ワンデーパスの補完的役割も果たせそうだ。
3. 今回の臨時快速は北海道&東日本パス利用者目的で設定か!
ただ、IGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道で利用できる乗り降り自由のフリーパスはこれだけではない。
移管前にIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道に相当する区間を所有していたJR東日本は、JR旅客6社の快速を含む普通列車乗り放題の定期発売の青春18きっぷが2002年12月1日の経営分離により利用できなくなることから、北海道&東日本パスをつくりJR東日本およびJR北海道のみならずIGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道の快速を含む普通列車を乗り放題とした。しかも発売当初青函急行「はまなす」のうち自由席は北海道&東日本パスのみで利用できたほか青森~函館間の特急「スーパー白鳥」「白鳥」の自由席も自由席特急券を購入すれば料金券だけで利用できたことから、かなり利便性の高いお得なきっぷとして注目された。
もっともお得過ぎるがゆえに2010年7月より青函急行「はまなす」も急行券を別途購入する必要が生じたがそれでも運賃部分は有効であったし、2016年3月26日の北海道新幹線開業に伴うダイヤ改正で青函トンネルを通過する旅客列車が特急「スーパー白鳥」「白鳥」から北海道新幹線「はやぶさ」「はやて」に変更しても新青森~新函館北斗間は空席利用の特定特急券を別途購入するだけで利用できる画期的なお得なきっぷとして機能し続けている。
が、発売当初は青函急行「はまなす」に間に合う列車、現在でも関東から新函館北斗に1日で向かえる列車に北海道&東日本パス利用者が集中しており、北海道&東日本パス利用期間中は混みやすくなっている。
では今回設定した臨時快速は関東から青森・新函館北斗方面へ1日で向かえるように設定している列車なのだろうか。
上野6時08分発の東北本線普通宇都宮行きから普通列車を乗り継げば盛岡17時55分発の臨時快速を利用できるし、新青森まで向かえば北海道新幹線「はやぶさ43号」新函館北斗行きに乗り継ぐごとができる。
また新函館北斗6時39分発「はやぶさ10号」東京行き一番列車で新青森に向かえば青森8時25分発臨時快速盛岡行きを利用できるし、盛岡から東北本線普通列車を延々と乗り継げば上野に23時21分に到着できるのである。こちらは臨時快速を設定したことによって青森7時55分着から8時25分発に30分で乗り継げるようになり、利便性が向上している。
そもそも臨時列車を運転する場合は車両運用や乗務員行路を極力減らしたいため、30分〜2時間程度で折り返すことが多いが、今回設定する臨時快速列車は盛岡での折り返しに6時間もかけていることから意図的に北海道&東日本パス利用者向けに設定していると言わざるを得ない。
今回の盛岡~青森間の臨時快速列車の時刻設定は、下り・上りともに北海道&東日本パス利用者にとって都合が良すぎる。つまり混みやすい三連休に北海道&東日本パス利用者を一般利用者と分離させようというのが今回の臨時快速の設定の本旨ではないだろうか。
ただ、IGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道は定期列車として普通列車を運転しており、定期列車の普通列車を利用しても前後の東北本線や北海道新幹線「はやぶさ」の接続時刻は下り(青森・新函館北斗方面)は変わらない。が、今回設定した臨時快速を利用すればメリットがある。
もし上野6時08分発東北本線普通宇都宮行きから普通電車を乗り継いだ場合、盛岡に17時14分に到着する。定期列車であれば次は盛岡17時26分発IGRいわて銀河鉄道線八戸行きに乗らなければならないが、ホームが離れてるため乗り換えに5分程度を要してしまう、これにより夕ご飯時ではあるが、盛岡で食事を購入して車内で飲食するのがせいぜいで、店に入って飲食するのは難しい。
ただ今回の臨時快速を使用する場合、盛岡17時55分発で設定しているため乗り継ぎ時間が41分に拡大している。乗り換え時間を含めても30分以上を確保しているので駅前の飲食店に入って食事をすることは可能だ。
また上り(上野・東京方面)でも青森での乗り継ぎ時間を30分設定しているため、朝食時間帯に駅前の飲食店に入店することは可能だ。
そう考えると、今回設定する盛岡~青森間の臨時快速列車は北海道&東日本パスで普通列車を延々と乗り継いで関東と青森・北海道を行き来するに当たり、盛岡や青森で飲食店にお金を落とさせるために設定したのではないだろうか。
4. 今回の臨時快速設定は将来的な普通列車減便の布石か?
ではなぜ今回の2022年7月以降のIGRいわて銀河鉄道および青い森鉄道臨時列車運転で盛岡~青森間の臨時快速列車を北海道&東日本パスで関東から青森・北海道方面に向かいやすい時間帯で設定したのだろか。
数字で見る鉄道によればIGRいわて銀河鉄道の全線平均輸送密度は2,793人/日・往復、青い森鉄道の全線平均輸送密度は2,341人/日・往復となっている。ただあくまでこれは全線平均であり、盛岡近郊や青森近郊では隣駅間輸送密度は昼間毎時1両で運びきれる輸送量4,000人/日・往復を超えている。
ただ、2002年12月1日の青い森鉄道発足時に移管した目時~八戸間では2010年以降既に平均輸送密度が1,000人/日・往復を下回っている。まだ剣吉~八戸間は2018年度には1,200人/日・往復程度あったとされるが3時間に1両あれば昼間は運びきれてしまうし、県境区間の金田一温泉~三戸間に至っては輸送密度が400人/日・往復を下回っておりJR西日本なら廃止に追いやってもおかしくないレベルである(もっとも青い森鉄道は全線でJR貨物から線路使用料をもらっているので廃止するなんてありえないが、旅客列車を極力減らしたいのは間違いない)。
このため2017年3月4日青い森鉄道ダイヤ改正で青い森鉄道の車両運用削減を主目的として盛岡~八戸間を通しで運転する列車を4往復削減(うち1往復は二戸乗り換え)した。が、そのたった1年後の2018年3月17日青い森鉄道ダイヤ改正で廃止した4往復中2往復を復便、盛岡→八戸間下り列車を11本(うち1本二戸乗り換え)、八戸→盛岡間の上り列車を10本(うち1本二戸乗り換え)を確保したのである。
これは、通常時は輸送密度が少なく閑散としているものの、北海道&東日本パス利用期間はIGRいわて銀河鉄道及び青い森鉄道で越境する人が多いためかえってIGRいわて銀河鉄道線内で混雑が偏り過ぎてしまったことから復便措置を行ったものである。
つまり青い森鉄道としては金田一温泉~八戸間の列車は減便したいところ山々なのだが、北海道&東日本パス利用者が特定の時期に集中して越境利用をするために十分な減便ができないのである。
そう考えると今回の臨時快速運転で北海道&東日本パス利用者を定期普通列車から臨時快速列車への利用に移すことができれば、今回の臨時快速の運転時刻と近い盛岡17時26分発普通八戸行き及び八戸9時30分発普通盛岡行きを金田一温泉~八戸間で廃止し、北海道&東日本パス期間中の土休日などの年間50日程度に限り臨時快速列車を盛岡~八戸(~青森)間で運転することで、定期普通列車の減便を狙っているのではないだろうか。
もしこの定期列車2往復が金田一温泉~八戸間で減便したところでほとんどの人は気づかないだろうし、むしろ2022年7月~9月に設定した盛岡~青森間の臨時快速が運転日を大幅に運転拡大!ともなれば北海道&東日本パス利用者は狂喜乱舞するのである。
そう考えると普通列車を減便し今回設定した臨時快速の運転日を拡大することは、青い森鉄道にとっても北海道&東日本パス利用者にとってもともにメリットがあることなのではないだろうか。
(2022.9.7 追記)なお今回紹介した快速青森ライナー・快速盛岡ライナーは10月8日~10日の三連休3日間にも運転することとなった。
また時刻違いで盛岡9時04分発快速あおもり青森行きおよび青森14時30分発快速もりおか盛岡行きの1往復を10月22日・23日・29日・30日の土日に運転することとなった。使用車両はIGR7000系で、IGRいわて銀河鉄道の旅客車両が営業運転で初めて青森まで乗り入れる。
なおこの列車は北海道&東日本パスの期間外かつ関東と北海道の異動に便利な時間帯の列車ではないため、青森は2時間35分で折り返す。
5. 結び
今回の2022年7月以降のIGRいわて銀河鉄道および青い森鉄道臨時列車運転では、盛岡~青森間で臨時快速列車を運転することとなった。
ただこの臨時快速列車の設定は北海道&東日本パス利用者向けに設定した可能性が極めて高く、今後の普通列車の減便や運転区間短縮を見据えたものであって、開業20周年はあくまで建前に過ぎないのではないだろうか。
今後IGRいわて銀河鉄道や青い森鉄道でどのようなダイヤ改正を実施するのか、楽しみにしたい。
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