中国鉄路は1月26日、プレスリリースにて1月25日に渝貴線を開業したと公表した( 重庆至贵阳铁路开通运营 )。今回はこれについて見ていく。
1. 高速新線ではない高速鉄道の開業
今回の2018年1月25日中国鉄路ダイヤ改正では、重慶市と貴州省貴陽市を結ぶ新線となる渝貴線を開業した。
重慶と貴陽を結ぶ路線は既に川黔線があるが、この川黔線は全長423kmで、50Hz、25,000Vの交流電化が成されているが、単線かつ最高速度60km/hということから列車速度が延びず、1往復の遵義~重慶間の区間運転列車(普通客車快車)を除き全て快速列車で、全線運転は南行き(貴陽方面)が11本、北行き(重慶方面)が12本となり、最速8時間32分となっていた。
しかし今回のダイヤ改正で川黔線快速列車がカバーするエリア全駅において新線となる渝貴線を開業させた。この渝貴線は電化されている頃はもちろんのこと、全長345km、13駅と既存の川黔線と比べて78km短くなったほか、複線、最高200km/hとなっている。
運転されるのは、高速列車(G列車)や動車列車(D列車)などの中国高速鉄道車両CRHの車両の他に、従来の川黔線で運転されていた料金格安の快速列車や貨物列車についても新線の渝貴線で運転される。本来であれば250km/hの高速鉄道として整備すべきかもしれないが、2017年に開業した西成高鉄や石済高鉄は8縦8横の高速鉄道網に入っているが、今回開業した重慶~貴陽間はこの8縦8横高速鉄道網計画に入っていない。そうであるならば2017年8月8日に整備された吉林省長春~内モンゴル自治区ウランホト間の長白線や白阿線のように既存在来線の改良で中国高速鉄道車両CRHの乗り入れをすればよいのではないかという声も上がるかもしれないが、今回開業した渝貴線の並行在来線となる川黔線は先述したように速度面でも線形面でもあまりにも線路環境が悪い。
ともなると、中国鉄路としては川黔線を改良して高速鉄道車両CRHを直通させるよりも、駅を多少多めに建設して新線に既存の路線で運転してきた快速列車や貨物列車を走らせ川黔線を休止してしまった方がメンテナンス面でも運用面でも安くつく。そのため高速列車のみならず快速列車や貨物列車も走れる渝貴線として新設することにしたのだろう。それが高速新線につかない高速鉄道や客運専線などの路線名になっていない理由であるものと思われる。なお国際鉄道連合の定義では貨物列車を走らせる場合、最高速度200km/hでも高速鉄道として扱われることから(但し250km/h以上の高速新線と別カテゴリとして扱われる)、中国で建設される高速新線の最高速度250km/hではなく、高規格化路線に適用される200km/hを最高速度としたのであろう。
2. ダイヤはいかに
さて今回新たに整備された渝貴線のダイヤはどうなっているのか。
運転本数を見ていくと、南行き(貴陽方面)は中国高速鉄道CRH車両44本、快速列車3本、北行き(重慶方面)は中国高速鉄道CRH車両42本、快速列車4本となっている。
最速はCRHがノンストップで2時間2分、快速列車が最速3時間46分となっており、厳密には快速列車の発着が重慶駅から主に重慶西駅に変更されているなどの変更点があるが、これまでの最速8時間32分(当時の重慶~貴陽間通しの列車は快速列車しかなかった)の半分以下となっており、快速列車でも表定速度91.6km/hとかなり高速で走っている。もはや中国国鉄の種別ランクで行けば料金が同一で1ランク上の特快にしてもいいくらいだ。
高規格化に伴い快速列車が減り高速列車に代替されるというのはよくわかるが、それまでの南行き(貴陽方面)が11本、北行き(重慶方面)が12本と比べると列車本数が南行きで327.3%増、北行きで283.3%増となっている。いやはやこれまでどんなに速くても8時間半以上かかっていた両駅間が2時間少々で結ばれるようになったからといって、いくら何でも増発しすぎではないか?
実はこのCRH運転の列車、多くが広州や四川省成都発着の列車なのだ。このうち広州南→貴陽東→重慶西のCRHが17本、重慶西→貴陽東→広州南のCRHが18本運転されている。また広州南~貴陽東~重慶西~成都東間のCRHも9往復運転されている。どうやら広州~貴陽に向かうCRHのうち概ね毎時1本程度が貴陽発着から重慶発着、またそのうち一部がその先の成都発着にまで延長している模様で、新しい高速列車網が今回の渝貴線開業で行われたことになる。広州も成都も都市圏人口が1,000万人を超える大都市圏であるから(日本でいう大阪、名古屋レベルに相当)、平たく言えば1975年3月10日の当時の日本国有鉄道の山陽新幹線全線開業により大阪と福岡が高速鉄道で結ばれることと同等かそれ以上に、広州と成都の両都市が一挙に結ばれるのは意義が大きい。
また今回開業した渝貴線では、雲南省昆明発着のCRHが5往復設定され、うち2往復が成都南~重慶西~貴陽東から昆明南間での運転となる。成都~昆明へは在来線の1,100kmにも及ぶ成昆線があるが、こちらが快速列車9往復設定されている。今回新たに設定された高速線経由では1,112kmにも及び、やや遠回りとなっている。それがCRH2往復のみの設定となっていることの根拠に見えるが、成都~昆明間は既存の成昆線の快速列車で所要時間が最速17時間11分かかるのに対し、今回開業した渝貴線を経由した高速列車では最速6時間32分で両都市を結ぶことができるのだ。運行本数が少ないとはいえ成都と昆明を結ぶ高速列車の開通はかなり貴重な存在となりそうだ。
なお、旧線となる川黔線は、先述した遵義~重慶間運転の区間運転となる普通客車快車1往復(5629列車及び5630列車)のみとなることとなった。これにより川黔線貴陽~遵義間の列車が消滅することになった。また、近年中国国鉄では一番遅く料金の低い種別である普通客車漫車と普通客車快車を廃止し小回りの効くバスに転換しつつある。この普通客車快車もバスに置き換えられる可能性があり、置き換えられれば川黔線も完全休止となるのであろう。
3. 削減される快速列車はどうなるのか
今回2018年1月25日中国国鉄ダイヤ改正では、渝貴線開業に伴い快速列車が再編されている。
K872/K873列車は湛江発重慶行きであったが、新線経由になり重慶西経由成都東行きに延長され、折返しとなるK871/K874列車も重慶発湛江行きであったが、成都東発に延長されている。またK142/K143列車は南寧発成都東行きから南寧発重慶北行きに短縮、折返しのK144/K141列車は成都東発南寧行きから重慶北発南寧行きに短縮されている。これは両列車で重慶~成都間を入れ替えたことによるものであろう。さらにK486/K487列車は深圳発成都東行きのまま新線経由に変更、折返しのK488/K485列車も成都東発深圳行きのまま新線経由に変更となったが、2泊列車から1泊列車に大幅に所要時間が短縮されている。また遵義発上海南行きK831/K834列車は貴陽始発に短縮され、K831列車としての運転は廃止されK834列車としてのみの運転となり渝貴線乗り入れは実施されないこととなった。
その他、重慶発昆明行きK159列車及びK167列車、昆明発重慶行きK160列車及びK168列車、太原発昆明行きK505列車、昆明発太原行きK506列車、貴陽発北京西行きK508列車、貴陽発西安行きK1034/K1031列車、西安発貴陽行きK1032/K1033列車、寧波発重慶行きK1248/K1245列車、重慶発寧波行きK1247/K1246列車、重慶発上海南行きK1249/K1252列車、上海南発重慶行きK1251/K1250列車、遵義発貴陽行きK9405列車、貴陽発遵義行きK9406列車及びK9486列車、成都東発貴陽行きK9454/K9451列車、貴陽発成都東行きK9452/K9453列車、重慶発貴陽行きK9517列車、貴陽発重慶行きK9518列車の合計20本の快速列車が廃止となっている。このように今回の渝貴線開業により多くの快速列車が再編されることとなった。
どうやら中国国鉄の目論見としては、京沪高鉄や京広高鉄などの国土軸となる高速鉄道は例外として、それ以外の客運専線として開業する250km/h対応の高速新線などの在来線快速列車とほぼ変わらない停車駅設定の路線では、まず高速鉄道網で完結する列車を中国高速鉄道CRH列車で走らせた後、CRHで行けない区間へは快速列車を残し、新たに高速新線ないし今回の渝貴線開業のような高規格改良線を開業した際に高速列車に順次切り替えていくのであろう。ともなれば、将来的に快速列車は縮小し、所要時間が短縮するものの値上げされるCRHによる運転となる動車列車や高速列車に置き換わってゆくのだろう。
4. 結び
今回の2018年1月25日中国鉄路ダイヤ改正では、渝貴線の開業により両端の駅となる重慶~貴陽で大幅に所要時間が短縮されたのはもちろんのこと、渝貴線を経由することでメガシティである広州と成都を結ぶ高速列車が運転されるようになり、8縦8横の高速鉄道網計画に載っていない路線にもかかわらず中国の六大都市圏のうちの2つを結ぶ重要路線となっている。特に四川省成都はメガシティにも関わらず交通上僻地であったが、近年になり2017年12月7日には西成高鉄が開業し首都北京へ所要時間が大幅に短縮されるなど、見どころが大きい。
今後どのような発展を遂げるのか、見守ってゆきたい。
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