鉄道・運輸機構は2019年7月11日、プレスリリースにて2020年度末までに青函トンネル内で多客期に限り210km/h運転を行うべく、高速試験走行を行うと公表した( 北海道新幹線 青函共用走行区間における高速走行試験について )。今回はこれについて見ていく。
1. 青函トンネルの最高速度向上へ
今回の2020年北海道新幹線臨時ダイヤ予測では、青函トンネル内で下り列車(新函館北斗行き)の一部列車に限り210km/h運転を実施することとなった。
これに先立ち、2019年9月4日~10月21日に青函トンネル内で200km/h~260km/hの試運転を行うとしている。
2017年12月13日の策定当初は200km/hでの運転を想定していたのだが、まるで後に東海道新幹線に転用される鴨宮モデル線で212km/h運転まで行けたかのように210km/h運転に引き上げたようだ。
今回の臨時ダイヤ策定は青函共用走行区間等高速化検討WG(第3回)配布資料が非常に役に立つ。この資料を参考にしながら予測していこう。
2. いかにして最高速度を引き上げるか
ではいかにして青函トンネル内で最高速度を引き上げるか。
青函トンネル内は1988年3月13日の開業よりJR東日本485系特急型車両により140km/h運転が実施され、その後JR北海道789系も青函トンネル運用に就くこととなり同じく140km/hで運転した。2016年3月26日ダイヤ改正で北海道新幹線が開業するも140km/h運転のまま据え置かれ、2019年3月16日ダイヤ改正で旅客列車のみ160km/hに引き上げられ今日に至る。
在来線の津軽海峡線時代は140km/h出せていれば十分であったが、北海道新幹線開業後も最高速度が抑えられているのは、貨物列車も青函トンネルを使用しているためである。
新幹線同士の場合、先頭形状が流線型なこともあり最高速度で運転しても多少揺れることはあるが離合(両列車がすれ違うこと)できる。しかし先頭形状が高速対応していない貨物列車で、車扱ならまだしもコンテナ連結の場合、高速走行で離合すると荷崩れを起こし得る。
2019年3月16日のダイヤ改正では、北海道新幹線で運転しているE5系やH5系の先頭形状が流線型で空気抵抗が少ないことから、160km/hであれば貨物列車と離合しても問題ないことが計算上及び測定上分かったためである。理論値では北海道新幹線側が170km/hでも問題なく貨物列車と離合できるが、万が一事故が起これば取り返しのつかないことになるため160km/hとしたようだ。
しかし逆に言えば、何も対策しないで北海道新幹線が200km/hで貨物列車と離合しようものなら貨物列車で荷崩れを起こし得るのだ。そんな危険なことできるはずもない。
そこでいかにして北海道新幹線を青函トンネル内で200km/h運転をさせるか。国土交通省のワーキンググループで出た結論は、貨物列車の運転を一部の日・時間帯に取りやめ、北海道新幹線しか運転しない時間帯を作ることだった。
ただ貨物列車を運転しない期間・時間帯を作るにも、貨物列車の運転が多い時期に行うのは不可能である。貨物列車の運転の少ない機関を見ると、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始に各5日程度、合計15日程度が対象に上がった。これらの貨物列車の運転の少ない日で、青函トンネル内を運転する時間帯を調整し、貨物列車の運転のない時間帯を作り出そうとしているようだ。
なお、2020年度の実現を目指しているが、2021年3月ダイヤ改正では次に貨物列車が少なくなる時期は5月のゴールデンウィークとなるため、2021年度になってしまう。つまり、遅くとも2020年12月には実施される見込みで、ダイヤに盛り込むとすれば2020年3月ダイヤ改正で盛り込まれるのではないだろうか。
3. どの列車で所要時間を短縮するのか
では青函トンネル内で210km/h運転を行うことで、どの程度北海道新幹線で所要時間を短縮でき、どの列車でその所要時間短縮を行うのか見ていく。
資料によれば、200km/h運転の際の所要時間短縮は当時の140km/h運転と比べて6分短縮するとしている。この資料によれば2019年3月ダイヤ改正でうち3分が短縮するとしているが、実際には2019年3月16日ダイヤ改正で奥津軽いまべつ停車列車も含め4分短縮している。また当時の想定の200km/hから引き上げられ210km/h運転としていることから、2017年12月時点と比べ8分、2019年7月時点と比べても4分所要時間が短縮されそうだ。
これにより新青森→新函館北斗間は最速57分から53分に、東京→新函館北斗間は最速3時間58分から3時間54分に短縮されそうだ。
とはいえ、先述したように1年365日ないし366日ある中で約15日しか所要時間短縮を行わないので臨時列車しか所要時間が短縮しないのではないかと懸念する方もいるだろう。ただ、資料を読む限り最速列車を中心に定期列車の所要時間短縮にも前向きとなっている。おそらく秋田新幹線「こまち」で臨時列車を運転すると田沢湖線内・奥羽本線内で定期列車の時刻が変更するかのように、期間中に限り北海道新幹線内で運転時刻を変更するのではないだろうか。
また資料によれば、青函トンネルを15時30分ごろまでに通過する列車で最高速度200km/hを超える運転を計画している。このことから考えると、東京10時20分発「はやぶさ15号」新函館北斗行きまでの途中駅始発含む定期列車7本及び臨時列車最大3本、合計最大10本が所要時間短縮の対象となりそうだ。
なお、この所要時間短縮は、工夫次第で北海道新幹線運転時間帯全てで行うことができるとしている。しかしそんなことをすれば貨物列車の運転時間帯が縮小されすぎてしまうのではないだろうか。
ちなみになぜ下り列車のみの最高速度引き上げと所要時間短縮とするのかというと、上り列車(東京方面)で所要時間を短縮すると、東北新幹線内で時刻を繰り上げるか新函館北斗の発車時刻を繰り下げなくてはならない。東北新幹線の時刻繰り上げは東京駅での折り返しに支障が出ることから不可能であるし、新函館北斗始発時刻だけ繰り下げても接続する列車を調整しなければならないこと、210km/h運転の前に試運転列車を運転する必要があるが、最速達列車が夕方に運転するため多くの貨物列車を運休しなければならないなど、メリットが少ない。このため、より効率的かつ臨時列車も足すと午前中1時間以内に列車が来る下り列車の方が最速達列車含む多くの列車を所要時間短縮を図ることができるためとなっている。
なお今後は上下線の間に遮風壁を設けて、260km/hでの運転を行うことを目標としている。JR北海道によれば北海道新幹線札幌開業時には320km/h運転を行うとしていることから、青函トンネルでもできるだけ最高速度を引き上げて東京〜札幌間4時間30分運転を目指すのだろう。
4. 所要時間短縮効果はいかに
ただ、北海道新幹線が所要時間を短縮しても、新函館北斗で接続する函館本線はこだてライナーや特急「スーパー北斗」の時刻変更がなければ函館や札幌に到達する時刻は変わらない。
臨時「はやぶさ」から連絡する臨時快速はこだてライナーは臨時列車のため運転時刻を変えることが可能であるが、定期列車の時刻繰り上げとなると動かしにくいし、ましてや函館市街地への通勤・通学輸送も担う各駅に停まる普通はこだてライナーの運転時刻なんて変えられない。ましてや特急「スーパー北斗」の運転時刻なんて変わるわけないし、北海道新幹線の新函館北斗発着時刻が変わった2019年3月16日ダイヤ改正でさえ札幌発着時刻を1分たりとも変えず、むしろキハ281系の一部(2往復)をキハ261系に置き換えたことで所要時間を延ばしたではないか。
考えられるとすれば2019年春の臨時列車運転より多客期を中心に運転している東京6時00分発「はやぶさ45号」新函館北斗行きが新函館北斗10時22分着から10時18分着に繰り上がり、終点新函館北斗で10時24分発特急「スーパー北斗7号」札幌行きに6分乗り換えで接続できるようになるくらいだろう。ただこの特急「スーパー北斗7号」は2019年現在キハ281系による運転でありキハ261系に置き換えられる際には函館・新函館北斗発車時刻が繰り上がる可能性があり、接続できない可能性がある。また2019年3月16日ダイヤ改正で旭川15時37分発特快きたみ北見行きが旭川14時40分発に大幅に繰り上がり、特急「スーパー北斗7号」札幌行きから特急「カムイ19号」旭川行き連絡で利用できなくなってしまった。
ではなぜ新函館北斗で待ち時間が増えるだけの臨時ダイヤを組もうとしているのか。それは、200km/h以上の運転をしなければ北海道新幹線が国際鉄道連盟から高速鉄道として扱ってもらえなくなりかねないためである。この説明やなぜ貨物との共用区間全区間ではなく青函トンネル内のみの最高速度引き上げとしたかは以前の記事に詳しく書いたので、参照されたい。
5. 結び
今回の2020年北海道新幹線臨時ダイヤ予測では、一部の期間に限り青函トンネル内の最高速度を引き上げることにより、所要時間短縮を図ることとなった。
しかし新函館北斗までしか開業していない現状では、北海道新幹線のみで所要時間を短縮しても接続する列車がなければ函館や札幌への到達時刻は変わらず、利用者にとっては利便性が上がるものとは言えなさそうだ。
今後通年での最高速度引き上げや札幌延伸時を見据えて、どのようなダイヤを組んでいくのか、楽しみにしたい。
コメント
数分にこだわるなら盛岡駅での連結をどうにかした方がよっぽど時間短縮になるのにと本当に思いますけどね。
なんで単独はやぶさは運行しないんでしょうか。
管理人注:コメント規約に基づき一部編集いたしました
遅くとも2031年3月ダイヤ改正までには、最速達列車のうちほぼ終日毎時1本が10両単独運転かつ大宮~新青森間では途中仙台、盛岡(一部は八戸停車ありかも)のみの停車になるはずです。
このあたりの予測については日を改めて別記事にて掲載しようかと思います。