JR東日本は2019年10月15日、プレスリリースにて北陸新幹線と中央本線の今後の復旧見通しについて公表した( 北陸新幹線及び中央本線(高尾~大月間)の現況と今後の見通しについて )。またJR東日本新潟支社は2019年10月15日、プレスリリースにて10月15日より信越本線で臨時列車を運転すると公表した( 北陸新幹線一部不通に伴う臨時快速列車の運転について )。さらにJR東海は2019年10月15日、プレスリリースにて10月16日より身延線で臨時列車を運転すると公表した( JR東日本管内中央本線運転見合せに伴う臨時列車の運転等について )。今回はこれらの甲信越地方で運転する臨時列車について見ていく。
1. 北陸新幹線不通で臨時ダイヤで運転へ
今回の2019年10月北陸新幹線及びJR東日本臨時列車運転では、北陸新幹線が一部不通になっていることに伴い、臨時ダイヤで運転している。
長野~上越妙高間は依然不通が続いており、長野以南は実質長野新幹線状態に戻ってしまっているし上越妙高以北はJR西日本管内のみで単独運転となっている。
長野新幹線区間では「あさま」を定期ダイヤとより2往復多い19往復を運転しているが、折返しの関係で下り(長野方面)は昼間の多くが「かがやき」や「はくたか」の東京発着スジを使用しており、昼間に「あさま」しか停まらない熊谷や本庄早稲田でも通常ダイヤと比べ大きく時刻を変更して運転している。この影響でマルスに号数と時刻設定ができていないためか、普通車全車自由席・グリーン車は車内にて販売となっている。
またJR西日本管内では「つるぎ」は平常運転してるものの「はくたか」は定期ダイヤのスジを生かして金沢~糸魚川・上越妙高間で運転している。運転するのは金沢方面が14本と糸魚川・上越妙高方面が13本であるが、うち上越妙高発着は上越妙高行き5本と上越妙高始発6本となっている。
ただ、全席自由席で運転するほか、開放するのは1~4号車のみと一部閉鎖している「つるぎ」の1~7号車及び11号車開放よりも少ない。また半数程度が糸魚川で折り返すのは、上越妙高駅だけJR東日本の管轄だからだろうか。
なお東京~金沢間で最速達の「かがやき」は全列車運休している。
このほかにも、東海道新幹線と接続することで北陸と東京方面を結ぶことができる北陸本線特急「しらさぎ」や特急「サンダーバード」で増結運転を行っているようだ。
1.1. 車両被災の北陸新幹線復旧後のダイヤはどうなる
では北陸新幹線がもし予定通り10月末までに復旧した場合ダイヤはどうなるのだろうか。
今回の台風被害では長野新幹線車両センターが水没したことによりE7系8本とW7系2本が当分の間使用できない状態となっている。現在北陸新幹線で使用しているのはE7系19本とW7系11本であることから、合計30本中10本が使えない状態となっている。
そもそも今回の台風は東京直撃コースだったので長野県で大きな被害が起きるとは上陸するまで分からなかったわけだし、
新幹線車両を避難できなかったことに対して批判しても、河川の氾濫自体が想定不可能だったためできない方が自然だしむしろ風が強い台風だったため(今回の台風で観測史上最高~3位までの観測が何か所ででたことか)高架に置いていた方が風速40m/sの風でかえって転覆し、周辺施設に被害をもたらした可能性がある。それを考慮せずに新幹線車両が水没したことに対してのみ着目して批判したり悔やんでも無意味だ。
またJR東日本のことなので災害保険には入っているだろうから被災したことに伴う費用負担は問題にはならないだろう。むしろ高架に置いていたらJR東日本が故意的に事故を起こしたと取られかねず保険がおりないことから、今回の長野車両センターへの車両留置は周辺被害を抑えるという目的では妥当な判断だったものと思われる。
また北陸新幹線が周波数を途中で変えながら運転するので他の新幹線から代走を用意するのはできないというのも半分誤りである。そもそも各新幹線とも混む時期と混まない時期はほぼ同時期に発生するものであり、閑散期に運用が余っているから北陸新幹線に回せと言われても多客期は元いた線区が混雑して車両が回せなくなってしまい、北陸新幹線で混んでいるときに車両を減らせと言われる方が酷である。これは北陸新幹線特有の問題ではなく、他の新幹線で被災してもそうなる。
つまり周波数を変えながら運転するので他の新幹線車両では北陸新幹線の運転本数を確保できないのではなく、どの新幹線であっても多客期の輸送力が各新幹線でギリギリなので被災してもそもそも回す車両がないというのが実際である。
なので、今回後述する書く臨時列車運転でも、運用をフルに使うことのない昼間や早朝・深夜の増発に限られており、既に車両繰りがギリギリな朝夕ラッシュ時の増発はしていない。
とはいえ、北陸新幹線の車両が30本中10本水につかってしまって当分の間動けないという事実には変わりない。北陸新幹線は2019年10月下旬には全線で復旧する見通しとしているが、どのようなダイヤが組めるのだろうか。
2019年3月16日ダイヤ改正時点で北陸新幹線は定期列車でE7系が13運用、W7系が9運用の合計22運用となっている。8運用が余っているが、全般検査などの長期離脱の他に臨時列車として運転する分を含んでいるためである。
しかし20運用では臨時列車の増発ができないどころか定期列車も一部削らなくてはならない。とはいえ、もし予備車も含め18運用で運用させたとしても定期列車だけに限れば昼間の「はくたか」「あさま」「つるぎ」各毎時1本ずつまでであれば運用が足りるので、朝夕の「かがやき」を中心とした減便のみで賄いきれるはずだ。もちろん朝夕に限り「かがやき」と長野新幹線区間でほぼ各駅に停まる「はくたか」の2本立てにして「あさま」を減らす可能性はある。
そう考えるとプレスリリースの5~6割程度と言う表現は、恐らく臨時列車も含めた本数のことを指しているのではないだろうか。もし定期列車の5割~6割しか運転しないのであれば、台風被害に便乗したJR東日本の怠慢と言わざるを得ないだろう。
1.2. 上越新幹線向けE7系の転用で早期復便か
ただ、幸運なのは現在JR東日本では上越新幹線用にE7系を製造しており、近々増備されるはずだった。どうやら台風の影響で搬入予定日を過ぎている編成もあるようだが、この上越新幹線用E7系を一時的に北陸新幹線で運用させることにより、被災車両の修理のみの場合よりも早期に被災前の状態に復帰させることができる。上越新幹線ではE7系の導入により置き換えるはずだったE4系やE2系の使用を当初より伸ばすことで編成数を確保できるので、短期的にはなんとか賄えそうだ。
ただし、2023年に予定されている上越新幹線のE7系統一及び最高速度引き上げは延期となる可能性はゼロではない。もし今回被災したE7系8本を全て新造とする場合、1年間に2本ずつ追加で新製しなくてはならない。しかもJR西日本の編成補填も製造メーカーに行うとすれば、さらに2本追加で製造しなくてはならなくなる。
とはいえ、上越新幹線用E7系は15本導入の見込みで、前回の2019年3月16日ダイヤ改正までに3本が導入済みだ。これから、当初の予定では2019年以降は毎年4編成ずつ導入して置き換えるはずだった。これを毎年7編成導入にしたとしても、JR東日本の財力と車両メーカーの都合を考えても、実は2023年3月ダイヤ改正までに上越新幹線のE7系統一はなんとか可能だ。2023年3月ダイヤ改正は北陸新幹線敦賀延伸も同時に行われ、最高速度引き上げによる所要時間短縮と共通運用化による運用増加数抑制も行え、ついでに全席指定席化も狙える絶好のチャンスだ。それをJR東日本は逃したくないはずだ。
ではE7系の当初の予定よりも多い増備を行うには、ほかの車両の増備を抑えなくてはならない。そう考えると、真っ先に考えられそうなのがE5系の導入をさらに遅らせることだ。
そもそもE5系は当初の予定では2017年3月ダイヤ改正までに東北新幹線のE2系を全て置き換えるはずだったが、2019年になっても13本の東北新幹線用E2系が残っている。
東北新幹線では2023年3月ダイヤ改正で盛岡〜新青森間で320km/h運転を行うとしているが、そもそも盛岡以北の定期列車の全てと臨時列車のほとんどがE5系またはH5系での運転であり、すでにほとんどが320km/h対応の編成となっている。
また、E5系の導入を見合わせることにより2023年以降に導入予定のALFA-Xの成果による新型車両(仮称E8系)を導入した方が、より短期で高速化が見込める。そう考えると、あえてE7系を増備しなくてはならない分E5系の増備を減らし、2023年以降のE8系の導入に後回しにしたほうがいいのではないだろうか。
そう考えると、上越新幹線のE7系の導入は継続して行い2023年3月ダイヤ改正までに統一し、東北新幹線の車両置き換えが遅れていくのではないだろうか。
2. 北陸新幹線不通により信越本線で臨時列車運転へ
また今回の2019年10月JR東日本臨時列車運転では、北陸新幹線長野~上越妙高間の不通に伴い、臨時列車を運転する。
設定するのは昼間の長岡~直江津間にノンストップ快速列車3往復となっている。運転時刻を見るに1運用で運用できそうだ。
プレスリリースでは北陸方面から東京・新潟方面へのアクセスの救済としているが、そもそも新潟方面は特急「しらゆき」5往復は全て回復しているしそれに接続する北陸新幹線は運転している(それ以外は糸魚川で折り返してしまうが)。また金沢から東京に向かうのであれば特急「しらさぎ」と東海道新幹線「ひかり」を米原乗継で利用する方が速いわけで、わざわざ新潟県内を経由する必要はない。
そう考えると、今回の臨時列車運転は上越市や糸魚川から東京方面へ向かうための救済が設定の主たる理由ではないだろうか。
そもそも上越市内から東京に出るには上越妙高乗継北陸新幹線利用が一番早いが、2015年3月14日の北陸新幹線開業前までは1に北越急行から越後湯沢乗継上越新幹線利用、2に信越本線妙高などから長野乗継北陸新幹線利用、3に信越本線特急「北越」などから長岡乗継上越新幹線利用であった。
北越急行は直通する越後湯沢まですでに全面復旧しているが、特急「はくたか」最大9両編成が北陸新幹線開業により乗り入れがなくなった今残っているのはHK100形のみで、最大2両編成での運転となっている。北越急行も曜日運転列車の設定による直江津~越後湯沢間直通列車の増強を行っているが、これだけでは北陸新幹線不通時には上越市内から東京に出る利用を賄うには輸送力が足りないことから、今回臨時列車を設定することとなったものとみられる。
ただ、臨時列車の経路は北越急行経由ではなく信越本線直江津~長岡間となっている。
現状JR東日本は特急用以外で交直流電車を保有していないため、2017年3月4日ダイヤ改正で廃止する前まで運転していた快速のように糸魚川に乗り入れられないのは分かる。しかし北越急行には急行「能登」などを臨時で走行させたこともあり、E129系も保安装置の関係を考えても北越急行に乗り入れられるはずなのだが、今回の臨時列車運転では北越急行線内で乗務員訓練を行っていないことから北越急行経由ではなく信越本線経由で設定したようだ。
3. 中央本線でも仮復旧で臨時ダイヤによる運転へ
また今回の2019年10月JR東日本臨時列車運転では、中央本線の仮復旧に伴い臨時ダイヤで運転する。
今回の臨時ダイヤでは、2019年10月18日の全線運転再開を目指しているが、中央本線高尾~相模湖間を単線で仮復旧を行うために保安装置類が使えず、高尾~相模湖間でシャトル列車を昼間のみ1時間20分に1本程度運転することとなった。所要時間は片道9分なので折返し時間6分で運転すれば毎時2本まで行けそうな気もするのだが、上り(高尾方面)運転時に保安装置が使用できないため減速運転を行い所要時間25分となるため毎時2本運転ができないようだ。
なお高尾~相模湖間は保安上の関係で本復旧まで専用の1編成しか運用できないため、中央本線特急「あずさ」「かいじ」「富士回遊」は当分の間運休となる。
4. 中央本線本線減により身延線で早朝深夜に増発へ
また今回の2019年10月JR東海臨時列車運転では、JR東日本の中央本線が今後も運転本数を確保できず特急列車を設定できないことから、2019年10月16日より身延線で早朝・深夜に臨時列車を運転する。
今回設定するのは甲府4時55分発身延行き(直通静岡行き)と身延23時51分発甲府行きの1往復で、早朝の甲府発と深夜の甲府着で運転する。この1往復は甲府~身延間ノンストップで運転し、JR東海の甲府市内直営駅である特急「ふじかわ」も停車する南甲府には停車しない。
これにより富士と三島で乗り継いで東海道新幹線「こだま」を利用すると、甲府4時55分発の利用で東京8時47分着(土休日は9時07分着)、甲府行きの最終便の利用は東京20時26分発「こだま687号」名古屋行きの利用が可能となる。
朝一番の中央本線特急「かいじ」は甲府7時18分発で新宿9時04分着(土休日は9時03分着)なので、甲府を出発する時間帯は2時間以上繰り上がるが、東京都区内到着は不通前と同じ時刻で確保できる。帰りは不通前は中央本線特急「かいじ23号」が東京22時45分発、新宿23時00分発で設定していることから、身延線経由利用だと2時間以上繰り上がることとなった。
ただ東京~甲府に向かうにはよほど遠回りなので、早朝・深夜以外の増発はなく、身延線特急「ふじかわ」の増結もない。中央本線特急「あずさ」「かいじ」が動かず、中央道高速バスの運転もないので事実上寸断状態なので重宝はするのだが、完全復旧の見通しが立っておらず当分の間運転されそうだ。
またJR東日本管内の中央本線不通に伴う臨時列車運転に中央本線特急「しなの」の増結を記載しているということは、東京~松本・諏訪方面への特急「あずさ」利用の代替として、北陸新幹線「あさま」利用長野乗継中央本線特急「しなの」利用を勧めているのではないだろうか。
JR東海としては、リニア中央新幹線の開業により東京~甲府・松本間のJR東日本の利用が減少することから、乗客減少分の補てんをすることとしている。台風により被災しているのでJR東海から公に言えることではないが、今回の特急「あずさ」「しなの」の長期間不通は今後リニア中央新幹線開業に伴う減収補てん費を長期的に削減する絶好の機会であり、今回中央本線特急「しなの」の増結や身延線で臨時列車運転を行うことで支援をすることで減収補てん費の支払い額を抑えようとしているのではないだろうか。
そうでなければ、犬猿の仲であるJR東日本のピンチをJR東海が救済するとは思えない。というか、収容力の高い東海道新幹線でカバーしたいというのが本来のJR東海の考え方のはずだ。そう考えると、長期的な新幹線の利益確保のために身延線で保線時間を短縮してまで臨時列車を運転したいのだろう。
このほかにも、身延線では10月17日より昼間に臨時快速列車の増発を行っている。
5. 結び
今回の2019年10月北陸新幹線及びJR東日本・JR東海臨時列車運転では、北陸新幹線や中央本線の不通に伴い会社間の壁を越えて様々な臨時列車・臨時ダイヤで運転することとなった。
今後復旧が進むにつれどのようなダイヤで運転していくのか、見守ってゆきたい。
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