JR西日本岡山支社は2020年1月30日、プレスリリースにて4月~7月に芸備線で臨時列車を運転すると公表した( 芸備線(新見~備後落合駅間)の増便について )。今回はこれについて見ていく。
1. 輸送密度全国最低区間で増発へ
今回の2020年4月~7月JR西日本岡山支社臨時列車運転では、芸備線で臨時列車の運転を行う。
芸備線の臨時列車運転は2019年10月~12月に広島支社管内で快速列車の増発を行ったが、今回の臨時列車運転では2018年の豪雨土砂災害から早期に復旧していた岡山支社管内でも、復旧から2年以上経った今になり臨時列車を増発することとなった。
今回の臨時列車運転では昼間に増発を行い、昼間に新見~東城間で2往復、東城~備後落合間で1往復を2020年4月4日から7月31日までの期間中曜日問わず毎日増発する。増発及び延長運転するのは新見7時17分発東城行きの備後落合行きへの延長及び、新見8時22分発東城行き、新見11時12分発東城行き、備後落合9時09分発新見行き、東城11時56分発新見行きの4本を増発する。なお運用数は2運用のまま変わらず、日頃同様キハ120形1両編成で運転する。
これにより期間中芸備線新見~備中神代~東城間は1日6往復から1日8往復に、東城~備後落合間は1日3往復から1日4往復にそれぞれ増発することとなる。これにより東城~備後落合間は2005年3月1日ダイヤ改正より1日5往復(うち1往復休日運休)から1日3往復に減便し、木次線出雲横田~備後落合間などと同様本州で一番列車運転本数が少ない運転となっていたが、今回の臨時列車運転により運転本数を増やすこととなり、ワースト1位タイから脱出した。
ただ今回の増発区間である芸備線東城~備後落合間の輸送密度は全国最低の8人/日・往復を記録したことがあり、2018年度も9人/日・往復しか利用がない。1日1往復しか運転していないJR北海道札沼線浦臼~新十津川間ですら23人/日・往復いるのに、列車本数が3倍ある芸備線東城~備後落合間は利用者が半分もいないのである。はっきり言ってトヨタハイエース9人乗り(タクシーと同じ普通自動車二種免許で営業運転可能)で輸送できてしまうレベルで、近年廃止している三江線や石勝線夕張支線と比べても桁が1つ小さい。そんな田舎、民間バスの備北交通すらも当の昔に撤退しているレベルである。
なお残るほぼ岡山県区間の備中神代~東城間の2018年度の輸送密度も73人/日・往復で、三江線のワースト記録44人/日・往復ほどではないが、2010年以降のJR各社が廃線にするレベルの輸送密度しかない。なおこの輸送密度は本州では芸備線東城~備後落合間に次いで2番目に低い。
そんな中で別に広島からの初列車と接続できない備後落合始発の列車を設定したところで、乗る人は限られている。果たして設定に意味があるのか疑問でしかない。強いて言えば2020年3月14日JR西日本岡山支社ダイヤ改正で姫新線で新見13時39分発津山行きを新見12時50分発津山行きに繰り上げるので臨時列車利用で20分接続で連絡できるのはあるが、そもそも定期列車ではダイヤ改正前の新見13時39分発津山行きに接続する列車がなかったので果たして本当に意味があるのか疑問なことに変わりはない。
かつて中国自動車道ができるまで東城から東京・名古屋・大阪への最短ルートとして機能していた中国バスの福山~東城間は、所要時間が2時間かかるものの1日8往復(東回り・西回り合計)のバスの運行があったのに、民間の中国バスの大減便により2017年以降は途中乗り換え有りの平日1日3往復・土休日1日1往復しか運転がない。というか、そもそも東城には庄原・三次・広島へ向かう備北交通高速バスが平日1日6往復・土休日1日4往復運転しているし(つい数年前まで全日1日8往復あったのだが)、大阪に出るのもみよしワインライナーが1日4往復運転(こちらも2016年まで1日5往復の運転があったのだが)しており4時間半もあれば行くことができる。4時間半なんて長いと思うかもしれないが、備北交通高速バスで東城から広島市街地に出るのに2時間半かかると思えば意外と新幹線連絡といい勝負だったりする。ただ、東城町の人口が庄原市と合併する直前の2005年には1万人いたのに、15年経った2020年初めには7,500人を割っていることを考えると、いかに人口が減ってしまっているかがよくわかるし列車やバスを減便しても致し方ないレベルになってしまっている。
周辺では三江線も地域の協議会からバスでの増発を提案し実際に行ったものの、そもそも住民が少なすぎるので利用は伸びるわけもなく2年後に鉄道自体がなくなってしまった。芸備線備中神代~備後落合間も利用が伸びなければ廃止にするということを見込んで増発を行っているのではないだろうか。
災害による幹線不通時の緊急避難としての活用も、2018年の広島豪雨により山陽本線の三原~白市間などで普通になった際JR貨物の貨物列車の迂回は伯備線・山陰本線・山口線経由の特急列車も運転するルートで実施した。そもそも芸備線狩留家~中三田間の復旧が一番遅かったので芸備線経由での貨物列車迂回運転はそもそもできなかったのだが、別に芸備線が不通でも迂回ルートが確保できることが分かってしまったので今さら芸備線を全線残しておく必要はない。
最近社会実験と言う名目で市町村などの自治体が鉄道会社にお金を払って増便しているけど、なんだか姫新線ドリームを見すぎているような気がする。確かに姫新線ではある程度増発して利用者も増えたけど、それにはある程度の人口がいたこともあるけれど同じく人口のそこそこいる越後線内野~吉田間で増発したらかえって利用者が減って3年の予定だった社会実験期間を2年に打ち切ったこともあるし、そもそも日本三大過疎の広島の山奥で増発したって乗ってくれないよ。というか、列車の連絡改善だけで乗ってくれるなら輸送密度8人/日・往復なんてならない。
今回の臨時列車の増発が芸備線快速庄原ライナーのように長期運休区間を跨ぐ直通列車であるのならまだわかるが、そもそも岡山県内の芸備線は2年以上前に全面復旧しているのでこの時期の臨時列車増発は不自然だし支社境を跨ぐこともあって直通列車の運転がない。そう考えると、今回の臨時列車運転は十年以上の計画で芸備線の部分廃止を考慮する判断材料としているのではないだろうか。
2. 全国最閑散区間の廃止は可能なのか
ではここから、果たして全国最閑散区間を含む芸備線備中神代~備後落合間の廃止は実際可能なのか見ていく。
まず、鉄道路線の廃止自体は法的には届出のみで良いとしているため、究極を言えばJR西日本の独断で1年以内に路線を廃止にすることは可能だ。ただ規制緩和前は認可制だったためほぼ必然的に沿線の同意が必要不可欠であったこともあり、今でもバスの廃止も含めて事前に地元と協議することがほぼ前提条件となっている。つまり、地元が同意しなければ路線の廃止は難しいと見ていい。実際JR北海道留萌本線の廃止は、留萌市と増毛町はすぐに話に乗ったので留萌~増毛間は廃止できたが、空知総合振興局内3市町が協議に応じていないため全線廃止までは程遠い状況になっている。
ではその地元では路線廃止の提案を受けた際にどのような反応をするだろうか。芸備線備中神代~備後落合間の沿線自治体は平成の大合併により岡山県新見市と広島県庄原市の2つのみである。
まずは全国最閑散区間東城~備後落合間の各駅を有する庄原市。庄原市は民間バス会社である備北交通の本社があるが、備北交通への補助金支払いと税収確保のため備北交通本村線と大部分で重複する中国バス上下-田総-庄原線(日野リエッセ29人乗り)を2012年9月末で廃止に追いこみ、自前の庄原市営バス(トヨタハイエース13人乗り)に置き換えた。この中国バスは旧総領町内から隣接市町村に出る唯一のバスだったのだが、この庄原市営バスへの転換で旧総領町は中型バスすら来ない平成の大合併前の市町村となってしまった。さすがの秘境吉和でも日野ポンチョ29人乗りの乗り入れはあるというのに…
つまりここまでで言いたいのは、庄原市は自分の税収が増えたり補助金拠出が減る行動をすぐにやるということ。芸備線東城~豊後落合間は庄原市の費用で備北交通に運行を委託している廃止代替バス小奴可線を運転しているし、庄原市の補助金路線である西城交通の路線まである。つまり庄原市からすれば芸備線が存在することによってこれらのバスへの補助金を多く払わなければならないのだ。そんなのJR北海道石勝線夕張支線同様JR西日本から廃止協議された瞬間首を縦に振る可能性が高いレベルである。しかも芸備線東城~備後落合間には市の中心駅備後庄原駅も含まれていないから、廃止はたやすいだろう(むしろ、芸備線三次~備後庄原~備後西城間では備北交通一般路線バス最大の幹線三城線が並走しているので、庄原市内全てのJR線の廃止を提案しても首を縦に振る可能性すらある。さすがに芸備線三次~備後落合間は陰陽連絡機能がゼロではないのでJR西日本が廃止提案を行うということはないとは思うが)。
次に新見市。新見市内の芸備線は庄原市内の東城~備後落合間と比べたら8倍以上の利用があるが、それでも100人/日・往復には満たないのでバスで代替するのは十分可能なレベルである。
東城は広島県庄原市なので岡山県内区間は備中神代~野馳間ということになるが、備北バス(先述の広島県庄原市に本社を置く備北交通とは全く関係のない別会社)が通学時間帯に1日2往復運転しており、残りはコミュニティバスで代替している。
ただ新見市には先述した庄原市のような民間バスの意図的な締め出しは行っていない(というか、締め出した庄原市が異例中の異例である)。ただ新見市も最悪伯備線特急「やくも」があれば枝に興味がないと言えばなく、むしろ税金で赤字補填している備北バスへの支払いが減ると思えばJR西日本の廃線提案に首を縦に振る可能性はありそうだ。
3. 結び
今回の2020年4月~7月JR西日本岡山支社臨時列車運転では、芸備線内で臨時列車を増発する。
ただ、そもそも沿線人口が少ないため利用があまり伸びないのは目に見えており、芸備線備中神代~備後落合間は数十年以内に路線廃止を行ってもおかしくない状況にある。
今後どのようなダイヤ改正を行うのか、見守ってゆきたい。
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